先月の末、地元の観光組合と旅行組合が集まり、予想もしていなかった緊急課題について会合が開かれた。
会場には町の行政の責任者も出席しており、この事態に至った経緯について説明されたそうだが、地元の関係者にとってはそれこそ寝耳に水というような出来事で、会場が納得の行かない空気で包まれていたのも当たり前だった。
行政側から突然出て来た案件は、旅館組合や観光組合がお客様の駐車場として利用している河川敷で、もちろん所有権は行政側にあるが、随分昔から無償で利用させて貰っているものだった。
国道から幹線道路に入り、清流が流れる川を渡った橋のすぐ側にある空き地だが、温泉街から車で5分ほどの距離なので重宝されてこれまで利用されてきた。
それが来月から有償になるということで、行政側と観光組合、旅館組合が契約を結ぶ必要があるとなったもので、確ホテルや旅館は宿泊されるお客様の車をその駐車場へ入れるのに料金が発生することになり、市街地ではないのでお客様に負担を掛ける訳にも行かず、各宿泊施設が負担を強いられることになるので大変だった。
そんな話を社長である夫が持ち帰り、女将の八重子もスタッフ達と合議したが、夫の聞いてきた内容では大型バス1台「2000円」、マイクロバス「1000円」、乗用車「500円」ということになるそうで、旅館施設の駐車場が狭いところから大半の車をそちらへ回しているところから想像もしなかった経費の負担が発生することになった。
「女将さん、平均しますと1日に10台は駐車させていますから月間で150000円ほどの負担が発生します。お客様にご負担いただくとか宿泊料金をアップさせて充当させることも考える必要があるのでは」
副支配人がそう発言した時、社長が「それは出来ないことになっている」と却下した。旅館組合の申し合わせで取り敢えずは年内はお客様への負担をしないようにすることが決まったそうで、これらの変更に関する取り組みは来年からということで検討することになった。
行政側がそんな変更を提案したのは、高齢社会の現実に行政の予算が厳しいからだそうで、そのしわ寄せとして今回の提案に至ったらしいが、議会も満場一致で賛成したそうなので地元の議員を後援している組合長が立腹されていたことも知った。
社会福祉や医療費の負担が増えていることは誰もが知っているが、こんなかたちで自分達に影響が出て来るとは思いも寄らなかったことで、仕方がないかという空気が組合員達に流れていた。
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