観光組合の会合があった。女将の依子が支配人と一緒に出席したが、防犯関係の交流からメンバーとして参加している地元の警察関係者から、最近に発生したびっくり手口の窃盗事件のことを聞いた。
事件が起きたのは温泉街から近いゴルフ場で、数日前にお客さん達十数人のロッカーが荒らされ、貴重品専用ボックスを利用していなかった人達がかなり被害に遭ったという出来事だった。
警察の捜査で判明したのは全て合い鍵で開けられているみたいで、調べて行く過程で驚くことが分かったのは犯行に及んだ連中が実際にこのゴルフ場の客として訪れており、4人やって来て自分のロッカーのキーを仲間に渡して合い鍵を作り、十数人分が揃ったところで一気に実行したというものだが、やがて防犯ビデオの映像から犯人が突き止められ、グループが摘発されたそうだったが、旅館の大浴場に入浴中にルームキーを持ち去って犯行に及ぶケースもあるそうで気を付けなければならない。
依子の旅館のルームキーは2本を渡すようにしている。ご一緒に大浴場に行かれても先にお部屋に戻られても問題がないように対応しているものだが、スタッフ全員で犯罪者を見逃さないように気を配ることも大切で、数日前の全体会議でもそのことに支配人が触れていた。
そうそう、依子が忘れられない出来事があった。それは4年前に起きた事件。ご高齢のご夫婦がご利用くださったのだが、夕食が終わって片付け、寝具をセットしてからしばらくした頃にフロントに電話があり、ご主人の腕時計が行方不明ということで大騒ぎになったのである。
「大浴場に忘れていなかっただろうか?」「何処かでベルトが切れて御としたのかもしれない。廊下かロビーに落ちていなかっただろうか?」なんて聞かれても見つからず、ひょっとして担当スタッフが疑われてしまったのではと気になっていたら、お帰りになった日の夜に電話があり、自宅にあったということが判明してホッとしたが、何か怒りのぶつける先が見つからない笑い話みたいな出来事として記憶している。
「イヤリングの片方を落としたみたい」とか「ネックレスを忘れていなかったかしら?」なんて電話があったこともあり、結構お客様の勘違いが多いので困惑するが、大浴場の脱衣場にコンタクトレンズを落としたので探すのを手伝ってと言われて時は大変だった。なぜなら他のお客様が動かれて踏まれたら大変なので、早く見つけなければならなかったのだが、「ここに落ちていたわ」と見つけてくださったのは別のお客様で、一件落着となって脱衣場で思わず拍手をしたくなった依子だった。
大浴場の脱衣場に防犯カメラを設置することは不可能で、最近は高性能の小さなカメラも出ているので盗撮を目的にお客様が持ち込まれていることも考えられ、過日の女将会でも問題になっていた。
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