予約してあったタクシーにホテルの玄関で乗り込む。荷物をトランクへ積み込んでくれた運転手さんは女性だった。
「富良野は冬のスキーシーズンと花の季節が最高ですから又お越しください」と富良野の知らなかった観光情報を車内で教えて貰った。
母がもう一度この地を訪れることは無理だろうが、次回に再来出来たらそんな時期にと思った真理子だった。
滝川駅から札幌までは、旭川と札幌を結びそこからエアポートライナーとして新千歳空港まで行く「スーパーカムイ」を利用したが、空港の一つ前の南千歳駅で乗り換える方法もあったが、指定券は札幌乗り換えの「スーパー北斗」となっていた。
「スーパーカムイ」にはグリーン車の連結はなかったが、「スーパー北斗」のグリーン車は南千歳駅からトマム駅まで利用した「特急スーパーとかち」と同じで「1+2」の座席でゆったりとしたスペースで乗客も少なく、後席も空席だったので母の席を遠慮なく倒すことが出来た。
洞爺までの所要時間は1時間40分。苫小牧、白老、登別、東室蘭を通って太平洋側に沿って走ると昭和新山や有珠山近くにある洞爺に着くが、旅行会社の課長が選んでくれていたホテルは閉館した旅館を新しくリニューアルしたもので、オープンしたばかりなのに注目を浴びて人気があると聞いていた。
駅前からタクシーでホテルの玄関に到着したが、ちょっと気になる光景が目に留まった。大型バスが到着したところで、乗客は中国人の団体客だった。
トマムの夕食レストランも賑やかだったが、またここであんな状況がと想像すると疲れが出たが、自分より母の方が心配しなった真理子で、「お母さん、大丈夫。またマッサージをお願いするからね」と声を掛けていた。
チェックインが済んで部屋に案内されて驚くことになった。そこは特別室で何かの間違いではと思って案内してくれたスタッフに確認したら、「**様から特別なお客様だからと伺っておりますので」と旅行会社の部長の名前が出て来た。
何か大きな「借り」が出来たように思えた真理子だったが、母への孝行につながることなので心から有り難く思っていた。
部屋から湖畔が見える広い浴室にはこの温泉独特の褐色の湯が溢れていた。これこそが日本人の文化である温泉の世界である。食事の前に温まることになったが、予想もしなかった贅沢な体験となって母の嬉しそうな表情が何より嬉しかった。
夕食は指定されていた食事処へ行ったが、そこは廊下に静かな音楽が流れているだけの静かな個室空間で、担当の女性スタッフに用意していた「ポチ袋」を渡し、「静かでよかったわ。中国の団体さんは?」と聞くと彼女は口を滑らせてしまったらしく「隔離しています」と返したので思わず笑ってしまったが、数日前に読んだ旅の情報誌に大型クルーズ船でも中国人専用のレストランを設置して隔離しているという記事があったことを思い出した。
明日は朝食が済んだらタクシーで洞爺駅に向かい、また「特急スーパー北斗」で函館に行く。 続く
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