このコーナーを始めて随分長いが、女将シリーズを始めたのは昨年の7月7日。つまり今日で1年目を迎えることになった。何度か書いたように毎回女将の名前を考えるのが大変で、段々横着になって重なっても仕方ないなんて考えてしまったこともあり、何度か同名が登場していることだろう。
昨日のニュースでは全国のホテルや旅館の女将150人が三重県の鳥羽に集結する「女将サミット」が開催されていたみたいだが、それぞれの女将がそれぞれの地でお客様に対応している訳である。
縁があって旅館の後継者と結婚することになって若女将となった人も少なくないが、体験することが重要と開設された「女将学校」や「女将塾」の存在もあり、中には女将という仕事に憧れて学び始めたという若い人もいた。
随分昔のことだが、仕事で行った近くに知られる温泉地があったので、夫婦で宿泊するかと列車の中で時刻表の最終ページにあるホテルや旅館の情報を入手したが、土曜日ということから3軒が満室で断られたが、4軒目の旅館が「お待ち申し上げております」となって安堵した。
この旅館の宿泊費用がびっくりするほど高額だったが、それだけのサービスが感じられたらと思いながら期待しながら駅前からタクシーに乗った。
「お客さん、この旅館に決められたのはなぜですか?何処かで情報を得られたのですか?」と運転手さんから質問をされたが、列車の中で時刻表の情報を見てと正直に答えると次のように教えてくれた。
今から行かれる旅館は古い建物ですが昔の実業家の別荘だった所を改装しており、有名なので。全国的に知られる女将学校の卒業生2人が運営を任されて営業をしていましてね、雑誌やテレビの番組で何度も紹介されているので期待出来ますよ」
それだったら高額でも納得だと期待を膨らませて高台へ15分程上り、その旅館の玄関に到着した。
時間は午後4時15分。玄関で和服姿の女性が水を撒いている。彼女は我々の姿を目にすると軽く会釈をしてくれ、側を通る時に「いらっしゃいませ」と言葉を掛けてくれたが、その人物が女将であったことを後に知ることになってびっくりした。
フロントで若い男性の対応を受け、和服姿の仲居さんの案内で部屋に向かう廊下を進んで行くと「お客様、お部屋に冷蔵庫がございますが、中は何も入っておりません。こちらからお好きな物をお持ちいただくようになっております」と言われたのだが、それは廊下が少し広くなった部分に設置されたガラス張りの大きな冷蔵庫で、私は350mlの缶ビール1本とウーロン茶を。妻はウーロン茶とジュースを持って部屋に向かった。
「こちらがお部屋でございます。本日はようこそお越しくださいました」と挨拶が済むとお茶の準備を進めてくれたが、ふとガラス張りの扉を開けると中庭になっており、その中央に5人でも入られるスペースの露天風呂があった。
高額だからこんな設備もと想像しながら、風呂好きな性格がその存在に何より嬉しく歓迎していた。
さて着替えるかと上着を脱いで箪笥を開けてびっくりしたのは、針金の粗末なハンガーが1本しか備えていなかったからで、床の間にあった電話でフロントに事情を話し、すぐに届けて貰った。
夕食は午後6時半から食事処でとなっていたので時間に行ったら我々の席が用意されていたが、ここでの食事の中で閉口する問題があって興醒めすることになった。この器でございますが、有名なマイセンでございまして18万円はする筈です」というように、料理よりも器の解説が価格説明付きでやってくれたからで、その人物が「副女将」で、到着時に玄関で水を撒いていたのが「女将」だったと知った。
様々な宿泊施設利用した歴史があるが、二度と行きたくない旅館のトップとなる思い出となっている。コスパも最悪だったが、それよりも「女将」と「副女将」が何を学んで来たのだろうかと疑問を覚えたし、あの冷蔵庫の飲み物も有料という説明が欠けていたことも指摘したい。
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「小説 女将シリーズ1年目」へのコメントを投稿してください。