大手の有名ホテルに勤務、ホテル業界でかなり知られていた人物が定年退職をされ、幸恵の旅館に総支配人として迎えることになった。
夫である社長との交流もあったが、出身されたのがこの町で、今でもご両親がおられるところからこの地で働けることが最高だと進んだのだが、そんな事情から報酬も信じられないほど低いので申し訳ないが、新しい人生をこの旅館でと張り切っておられる。
そんな総支配人から早速社長と幸恵に提案があった。それは「おもてなし」に関する検定試験の存在で、初級は8回、中級は7回目を迎えている事実を知った。
日本の宿検定委員会が主催しているそうで、国土交通省、観光庁、厚生労働省が後援。一般社団法人日本旅館協会、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、公益社団法人日本観光協会。JTB協定旅館ホテル連盟が協賛して実施されているもので、試験はネットのウェブが利用されており、そのHPを開いて説明をしてくれた。
初級の受験料は3100円、中級は3600円となっているが、受験して合格をしたらその旨を表記出来るアイテムもあり、旅館やホテルの勤務する人達には挑戦してみる価値のあるものだと思った。
早速受験させてみようという人選が始まった。フロントスタッフ、予約受付スタッフも入ったが、やはり多いのは仲居達で、言葉遣いも学ぶ必要があるところから明日から総支配人が講師となって勉強することになった。
そんな制度が存在していることは旅館組合の会議で耳にした記憶があるが、ずっと行動することがなかったのでちょっと気恥ずかしい思いの幸恵だったが、自分も受験してみようと勉強することにした。
この温泉地でそんなことに取り組んでいる旅館やホテルがあることは聞いていない。女将会でも話題になったことはなく、幸恵が気になったのは昔から交流のある大手旅行会社からの情報が入っていなかったことで、毎月来館して来る営業担当者がやって来た時に聞いてみようと思っていた。
総支配人が第二の人生を当館に勤務して過ごすということは思わぬ話題を呼んだようで、観光新聞や観光雑誌の取材も入っているし、地方紙だが地元の新聞からの取材の申し込みも入っている。
当然迎える側の社長や幸恵に対する質問もある筈で、今から何と答えようかと緊張しているが、「こんな場合は案ずるより生むが易しだ」と言った夫の言葉が救いだった。
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