女将の伊保子が夫と会葬に行った葬儀だが、後日談があった。それは先方の女将夫婦が葬儀の数日後にやって来た時に聞いた話だが、それは不謹慎なことだが思わず笑うような面白い出来事だった。
「あのパチンコ仲間のお話なのだけ、先代はパチンコ店のスタッフにも人気があったそうで、来なくなったことから入院したことを知り、その後に亡くなって皆さんがお通夜や会葬したことを話すと、意外なことが判明したのです」
それは、仲間の人物の一人が「得するから」と先代の身元を証明するべき健康保険証を持参するように言われ、フロントへ同行すると会員登録をしていた事実だった。会員になると交換したら約1割損をする分を貯玉することが可能で、次回にそれで遊べるところから絶対に入会するべきと勧められてメンバーとなっていたらしい。
「あの人の話は面白くて皆が聞きたかったところから、昼食時にランチタイムとして認められている40分間で近くの喫茶店に行ってカレーやエビフライなどを食べていたのですが、あの人が昼食休憩すると常連の多くがスタッフに『ランチ休憩』と伝えて着いて行くので、店内のお気に入りのコーナーが一気に空席が目立つ状態になりましてね、スタッフ達も苦笑いをしながら『規定の範囲内ですから』と話題になっていたのです」
「そんなことを教えてくださった仲間の方があったのですが、その話に店舗のスタッフから出て来た話もあって驚くことになったのです」
それは先代の葬儀が行われたことを聞いたスタッフが、「あの方のカードの中に幾らか残高があった筈ですよ。もしもご家族の方からご要望があればパスワードもこちらで判明しますので返却しますから」と言われたそうなのだが、仲間の中の一人が「私がパスワードを知っている。旅館の電話番号にしていた」と言って確認したらその通りで、3万円弱の残高があったそうだ。
「遺産と言えますが、皆さんがその喫茶店で『偲ぶ会』みたいな集いを考えておられることを知り、そこで使っていただくようにお願いしたのです」
パチンコ仲間で「偲ぶ会」ということで、伊保子が想像したのは<軍艦マーチでも流されるのかしら?>ということだったが、話が進んで行った中で、最近のパチンコ店では軍艦マーチなんて流れていないそうで、一昔前の時代を勝手に想像した伊保子は、自分自身でおかしいと心の中で苦笑していた。
先代さんと何度か食事をしたこともある伊保子夫婦だが、いつもグローバルな話題で面白い話を聞かせてくださったことを思い出し、仲間の皆さんが一緒に昼食タイムを過ごされたことを理解していた。
「このカードが会員証だそうで、もう残高は入っておりませんが『形見ですから』と届けてくださったのでずっと仏壇の引き出しにでも入れておこうと思っているのですけど、その時にもう一つ知った事実がありましてね、先代はそのパチンコ店の女性スタッフからいっぱいバレンタインの義理チョコを貰って皆さんに配っていたらしいのです」
それは先代の人柄を顕著に物語る思い出話だったが、<どうぞ安らかに>と改めて念じる伊保子だった。
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