町長の長男の奥さんが熊本出身で、今回の地震で実家が大変な被害に遭い、自宅が傾いて倒壊する危険性があるところから地元の中学校の体育館にご両親が避難していることを女将の花江が知った。
長男はこの温泉地を担当する町の観光課の職員で、日頃の交流もあるところから組合員がどうするべきかと会合を開き、お見舞いを届けることに決まり、組合長と事務長の2人が町長の家に同居している彼に届けることにした。
奥さんは昨日に福岡空港まで飛行機を利用、幼馴染みの親友に頼んで車で迎えに来て貰って両親に会いに行ったそうだが、負傷することがなかったので幸いだったと電話があり、一緒に避難先の体育館で数日を過ごされると知ったが、航空券の入手が困難で高額を承知でプレミアムクラスの空席待ちで何とか搭乗出来たそうだ。
今日の会合では出席者が真剣な面持ちで意見を出し合っていた。例のないほど余震が続いており、尋常でない出来事が起きている現実に誰もが恐怖感を覚え、観光産業という仕事が自然災害によって突然に逼迫する危険性があることが、決して他人事に思えない空気に包まれていた。
熊本に行かれた奥さんと親しい旅館の若女将によると、福岡空港から実家に戻るのに10時間以上を要したそうで、高速道路が通行止めになっているだけではなく、国道や幹線道路が渋滞している問題や停電による信号の不具合もあり、あちこちで段差があったり傾いた住宅がいっぱいあるのを目撃されて、考えてもいなかった光景だったと電話で聞いたと語っていた。
二日前に互いの研修交流を行っている熊本県内の温泉組合に支援品を集めて届ける準備を進めているが、ネットの中に「役立たない不要な物」として紹介されていたのが「千羽鶴」「生鮮食料品」「古着」などで、集まった品を段ボール箱へ詰めていた時、組合長が「ボランティアの精神で大切なことは一人の英雄を作ることもなく、一人の不協力者を作っても行けないことで、支援に自分の負担にならないような古着を送るなんて失礼になり、自身に負担になる新品を送らなければならない」と若い人達に教えていたのが印象に残った。
昨夜、お客様の部屋にご挨拶に参上した時に地震のことが話題になり、阪神淡路大震災で大変な被害に遭遇された方が来られていて体験談を伺ったが、道路の段差で地元の多くの車が何処かへ出掛ける時はトランクに厚い板を準備していたことを教えられ、その光景を想像するだけで背筋がゾッとした
地震、雷、火事、オヤジという言葉が昔から伝えられているが、地震とは本当に恐ろしいもので、1時間に何回も地震情報テロップが流れるテレビの画面の告知音を耳にすると、恐怖が走るが、こんな体験はこれまでの人生で体験しなかった出来事で、被災地の人達の存在を慮ると終息してくれることを祈るしかないと思った花江だった。
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