このところ台風の襲来が続いている。あちこちで被害が出ているみたいだが、小さな旅館の女将をしている優香は夕方のテレビのニュースを観て気になることがあり、すぐに支配人を呼んで相談した。
台風の影響による交通機関の欠航や運休もあるが、ニュースで報道されていたのは山形県の滑川温泉と姥捨温泉が道路の土砂崩れで孤立してしまったそうで、ライフラインには問題がなかったみたいで幸いだったが、道路が開通するまで宿泊客の皆さんが足止めされてしまうことになる。
優香は随分前からそんな最悪の想定をして、1週間程度の食料やペットボトルの水を十分に備蓄しているが、気になったのはそのペットボトルの賞味期限で、ずっとチェックをしていないので支配人に確認するように命じた。
しばらくすると支配人が倉庫からフロントへ戻って来た。「女将さん、ペットボトルの水の賞味期限は2か月あります」との報告だったが、それを知った優香は明日からそのペットボトルの水を使うようにして、新しいペットボトルを備蓄するように命じた。
気になって気が付いた時に行動しておくことが大切で、「しまった」と後悔することのないようにと考えるのが優香の性格。今年は台風の襲来が多そうだし、大雨に備えておくこともお客様を守る重要なことだと考えていた。
優香自身も学生時代にスキーに行って大雪のために3利用していた民宿で3日間缶詰になって過ごした体験があり、ゲレンデも雪崩の危険性があるところから入れず、5日間の中でスキーが出来たのは1日だけという苦い体験が忘れられない。
そんな自分が小さいながらも旅館の女将をしているのだから人生とは分からないものだが、当時に交友していた仲間達が家族を連れてやって来てくれるので嬉しいことだ。
その仲間の中に白馬のスキー場近くにペンションを経営している人物がいる。優香も何度か訪れてスキーを楽しんだこともあるが、長野オリンピックの前に需要を見込んで設備投資をしたのだが、予想していたほど利用客がやって来ず、その地のペンションで多額の借入金の返済から閉鎖したところも少なくない。
建設ブームの時はまるでバブルみたいにどこの銀行も貸し付けてくれたそうだが、その後が悲惨になるとの予測はなく、西武系列のグループだけ潤ったという地元の話も有名である。
優香の友人がやっているペンションは、優香のアドバイスから旅行会社との提携が進んだことがよかったみたいで、紹介手数料に抵抗感を抱いていたご主人を納得させて決断したことが英断となり、優香が行くといつも特別な料理で歓待してくれており、他のお客様に見せられないからと別室で食事をしている。
優香の友人のペンションは「ガストロフ」と打ち出しているので何かなと思って聞いたら、ドイツ語でペンションのことだった。
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