温泉地の観光組合の組合長夫妻はグルメで知られている。誘われて何度か一緒に行ったことがあるが、1週間ほど前に誘われて昨日に行ったところは想像もしなかった高級料亭で、わざわざ在来線の特急列車から新幹線に乗り換えて京都まで行って来た。
女将の諒子にとって初めての体験で、「河豚」と「クエ」の両方が食べられることにも驚いたが、食事代が一人で「48000円」だったので衝撃的だったが、組合長は「盆と正月が一緒に訪れたと思えば」なんて涼しそうな表情でそう言われた。
交通費を含めると7万円近い出費となるが、貴重な体験であることは確かで、「一見客お断り」という料亭の格式も興味を抱いたし、組合長夫婦が想像以上に高レベルなグルメの世界の知識を有している事実にも驚かされた。
「誰も彼も誘わないよ。価値観を理解出来なければ敬遠されるし、その点女将は我々夫婦にとって歓迎出来る人物だ。私達もグルメもそうだが。仲間の人選も拘っているよ
そんなことを言われて河豚とクエのコースの鍋料理を食べていたが、この食材はいつもあるものではないそうで、1ヵ月以上前に予約してやっと実現したものだと知った。
「クエは和歌山産と九州産とがありますが、これは和歌山産なので価値観が高く、2日間ほど寝かせてから食べることがテクニックで、新鮮だからとすぐに調理したらいけないのです」
来室して料理長がそんなことを教えてくれたが、彼の会話から夫妻が何度もこの料亭を訪れている馴染みだということも判明した。
「私はね、これと言って道楽もないし、ギャンブルにも興味がなく、こんなグルメだけが楽しみでね、体験したことは日常の仕事の中で生かされることになるので家内も許してくれているのです」
「夫はね、グルメにうるさいことはよいのだけど、料理長に厳しくなるのが問題でね、いつも間に入って緩衝の役を務めているのよ」
それは女将の悩みの問題になっていることが分かったが、時には料理長を伴うことも必要ではと内心思った諒子だったが、言葉に出すことは控えた。
贅沢で至福の時間を過ごして帰路につき、旅館に戻ったのは午後10時を少し過ぎていたが、体験したことを夫に話すと「信じられない!」と驚いていた。
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