壮絶な闘病生活を過ごされた方を看取られた方に伺った話だが、入院されてからずっと後悔されていたことが「もっと旅行に行くべきだった」「連れて行ってやりたかった」「あそこだけは行きたかった」と言われた言葉だった。
車椅子での外出も叶わなくなった状態になっての旅行は困難で、最近のホテルや旅館ではバリアフリーの対応にも積極的に取り組み、専用の部屋を設定しているケースも増えている。
社会は間違いなく高齢者が多くなっている。国民の4人に1人が65歳以上という報道もあったが、紗智子が女将をしている旅館がバリアフリーに取り組んだのは8年前で、大浴場の手摺り、各客室の浴室とトイレの手摺りなどを設置する工事を進めたが、エレベーターを利用されずに階段を利用されるお客様のことを考慮して、手摺りの材質、太さ、高さについて様々なテストを繰り返したこともあった。
バリアフリールームに設置されているベッドは大規模病院の病室に設置されているものと同じ物で。電動で様々な角度に調整可能となっており、頭の部分を高くして寝転びながらテレビの画面を観られるので喜ばれているが、就寝される時は畳の上に敷かれた布団でおやすみになる方が多いのは意外なことだった。
枕にも様々な物が揃えられてあり、高さ、材質、硬質タイプや軟質タイプもあるが、科学的に就寝に効果があると言われている備長炭を使用された物が人気で、それらを選択されるのはお部屋に入ってから「枕をお選びください」という案内プリントをご覧になって始まるのだが、この取り組みでデメリットとして出て来ているのが「あっちの方がよかったのでは?」という迷いで、何度も変更される方も少なくなく。部屋係の仲居達からの評判も悪いようだ。
列車は前以って知らせて置けば駅での車椅子対応をしてくれるが、紗智子の旅館には車椅子をそのまま載せられる専用車もあり、前以ってご連絡があれば駅往復の対応を行っている。
車椅子で旅行をされた方は、お帰りになってから同じような方々に情報を伝えることも多く、「あそこは優しく対応してくれる」という口コミからその方の知人や友人がご利用くださることも嬉しいことだ。
「体感に勝るものなし」という言葉があるが、車椅子を押すことも簡単ではないし、乗っている方も方向転換や傾斜のある所は想像以上に恐ろしく感じるもので。骨折入院で車椅子体験のある紗智子はスタッフ達を集めて何度か研修会を行っているし、そんなお客様が宿泊されている場合は特別な館内スタッフルールを設けており、万一の場合の避難についても専門スタッフが決められている。
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