三世代お揃いのお客様が来られることが増え、3年前のリニューアル時に最上階フロアにコネクティングルームを設けたが、最近の週末はずっと予約が入っている。
二間続きの部屋でお孫さん達はお爺ちゃんとお婆ちゃんの休まれる部屋に布団をセットして一緒にいうことが多く、隣室にあるツインベッドはご両親が利用されるということになるようだ。
祖父母にとって孫という存在は可愛くて仕方がないようで、大浴場へ行かれるのも大半が一緒で、湯に浸かって数を数える声が聞こえることも多い。
そんな三世代のお客様がご利用くださっている夜だった。大浴場に通じる廊下の方から幼い女の子の鳴き声が聞こえて来る。偶々ロビーにいた女将の美和が気になってすぐに確認に行った。
女の子が泣いてお爺ちゃんがあやしている。小学生ぐらいのお兄ちゃんが事情を説明してくれたが、ゲームコーナーにあるゴマアザラシの縫いぐるみの入ったユーフォ―キャッチャーで2000円を使って一つも取れなかったそうで、美和は夜食を提供している居酒屋コーナーのスタッフに電話で事務所の男性スタッフに来て貰うように頼んだ。
事務所からやって来るスタッフはこのゲームの達人で、これまで失敗したことが一回もないというのだからびっくりだが、彼が到着する前に美和は小銭入れから100円硬貨を2枚出し、準備をしていた。
やがて彼が到着、事情を知って美和から手渡された200円を投入すると、「お兄ちゃんに任せなさい。お兄ちゃんはプロだからね」と言うとキャッチャーのクレーンを動かした。
ゴマアザラシの縫いぐるみがすぐに取り出し口から出て来うことになり、泣いていた女の子に渡されると泣き止んで嬉しそうな笑顔の表情を見せ。二人を連れて来ていたお爺ちゃんも喜ばれてニコニコ顔。1個2000円の縫いぐるみとなったが、彼の存在があったことは美和にとっても幸運だったように思えた。
このユーフォキャッチャーやクレーンゲームは、スタッフの彼のようにお客様の中にも得意な方がおられることもあり、5つぐらいを抱えて嬉しそうに部屋へ戻る子供の姿を目にしたこともあるが、高齢者の方々には難しいようである。
次の日の朝、チェックアウトをされるご家族だったが、女の子は可愛いゴマアザラシを抱いており、フロントにいた昨日のスタッフに対して「お兄ちゃん、有難う」と帰って行った。
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