女将の美佐枝は市役所の会議室で行われていた地域団体の会合へ出席して来た。20数軒が加盟している旅館組合の全員が出席していたが、知事も市長も出席され、この地域で半年後に開催されるイベントに予想もしなかったご来賓を迎えることになったからである。
全国知事会を通じて政府にお願いしていたことが実現することになり、県や市の総力を挙げて取り組むことになった。
特別なご来賓というのは皇室をお迎え申し上げるということで、5年に一回の定期的に行われていたイベントが10回目を行う記念式典となり、知事と市長が随分前から答申していたことが実現することに至った訳である。
記念式典は午後から行われるので、遠方からご出席いただくご来賓はお泊りとなるが、皇室を担当させていただくのは組合長のホテルで、同乗させて貰った帰路の車の中で組合長の奥さんである女将が「大変なのよ」と内部事情を教えてくれた。
皇室を迎えるということは簡単ではない。行政や宮内庁からの調査点検が行われるし、警備を担当する県警も厳しいチェックが展開されるそうで、ご利用いただくお部屋や室内風呂の変更工事も考えていると聞いたが、特に厳しいのがスタッフの身辺調査や今後の施設や厨房の衛生管理で、もしも問題が発生すれば大変なことになる覚悟も必要であると知った。
他のご来賓も全員が組合長のホテルを貸切にして対応されるそうだが、こんな問題に詳しいアドバイザーを迎えて今後の進め方について討議が始まっていると語っていた。
その女将がアドバイザーから聞いた話に衝撃を受けた。中国国内の外国人が利用するような全てのホテルは国から盗聴や盗撮が義務付けられているそうで、利用者のプライバシーが困難であると覚悟しなければならないと言うのである。
数日前のテレビ番組で台湾との戦いの場となった金門島を訪れる観光客が採り上げられていたが、中国の本土から来ていた観光客にインタビューした際の発言には驚かされた。「何せグーグルが禁止されている国ですから」というものだったが、リポーターもかなり驚いていたのが印象的だった。
そうそう、組合長のホテルの女将さんの話の続きだが、当日を迎えるまでにご利用されるお客様のチェックも厳しくしなければならないようで、名誉なことだけど本番が終わるまでどれほど大変なことかと同情することになった。
温泉地に皇室をお迎えすることは名誉なことだし、ひょっとして当日のニュースで放送されて温泉地の認識アップにつながるかもしれない。女将会副会長の美佐枝は、組合の女将会全員でその日まで団結して協力することにしようと考えていた。
そうそう、組合長が閉会する前に言われた言葉に「なるほど!」と思った。今後は全ての宿泊施設で食中毒を起こさないようにということで、もしもそんなことになればこの温泉地に決定されていることが変更されるからだった。
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