代志子が女将をしている旅館のお客様が増え始めたのは2年前だった。ご来館くださったお客様に一方通行型みたいに懐石料理の夕食を提供していたが、それでご満足なのだろうかという疑問が生まれ、それからご利用くださるお客様達との会話から感じ学んだことを集約し、料理長をはじめとする厨房のスタッフ達に仲居や事務所社員を加えて全スタッフ
で何度も会議を重ね、やがてまとめられた答えが夕食の内容の思い切った改善で、スタッフの中に反対意見もあったが、取り敢えず半年間だけでもやってみようということになった。
1泊2食を謳う大半の旅館の夕食は懐石料理で、中には特別料理として「すき焼き」「鴨すき」「牡丹鍋」「馬刺し」「ステーキ」などを設定しているケースもあったが、代志子の旅館が方向転換として始めたのはお客様が予約時にお料理が選択出来るというシステムで、1週間前までに予約された場合には「クエ鍋」と「てっちり」まで可能というものだった。
海に近い旅館では海鮮料理や残酷焼きなどを売り物にしているところもあるし、高額プランの中には「牛ステーキ」「鮑ステーキ」「伊勢エビ」の3種が出されるという旅館もあるが、「クエ鍋」と「てっちり」まで可能というところはあまり見当たらず、HPに掲載してしばらくすると旅行会社からの問い合わせが増え、旅行雑誌でも採り上げられたので注目を浴びることになった。
HPのアクセスを分析すると興味深いことが判明する。新聞やテレビ番組で採り上げられた日のアクセス数は一気にアップするし、どのページが開かれたかという流れも把握出来るのだが、そんな情報から予約に進まれた方はすぐにアクセスのページを開かれるので面白いが、やはり宿泊料金などを記載しているプランのページを開かれるパーセンテージは高いようだ。
ホテルや旅館のHPでプランのページを開くと、いきなり「予約」という文字が表記されるところも多いが、専門家の分析によるとそこから戻ってしまうことが多いそうだ。
プランのページを開いて料金提示をはっきりと記載することは重要だが、ここで外枠に「表記されている料金はお一人様分です」という部分を見逃されて、2人分や一室の料金だと誤解されるケースもあるので要注意である。
代志子の旅館のプランページの価格はそれぞれの「鍋料理」によって異なる料金が記載されているが、決して安くはないが、ご納得をされたお客様からの予約が増えて予想もしなかった結果を迎えている。
部屋食で鍋料理となるとコンロという問題をクリアしなければならず、ガス管を各部屋に施設する意見や簡易ガスボンベによるコンロという考え方もあったが、1年前に各部屋のテーブルには電気によるコンロとなっているが、地域が停電になれば食事の提供が不可能となるので、万が一のために高額な費用を掛けて自家発電の設備まで備えている。
「ゆっくりとすき焼きを食べたい」「てっちりが食べられるの?それも河豚三昧のコースで!」と満足度が高いので喜んでいるが、予想しなかった問題も生じている。それはすき焼きなどによる室内環境の汚れや香りが残る問題で、仲居達の部屋掃除の仕方も工夫されるようになった。
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