チェックアウトをされたお客様を玄関までお見送りし、ロビーの花の一部の手直しをするのが女将の愛永(まなえ)の朝の日課だが、それからラウンジで大好きなレモンティーを飲みながら新聞に目を通してラウンジの若い女性スタッフから若い人達の最近のファッションなどを聞くのが楽しみになっている。
新聞記事には熊本の地震のことが多いが、その中に衝撃を受ける見出しが目に留まった。随分昔に夫と結婚した時に行った新婚旅行で訪れた「水前寺公園」の池の水が干上がってしまったというものだが、数年前の組合の研修旅行で熊本と長崎へ行った時も立ち寄り、池の中に「鯉」が泳いでいたことを記憶していたことを思い出し、鯉は大丈夫だったのだろうかと気になった。
水が干上がった原因は大きく揺れた本震によるものではと書かれていたが、少し離れた所に存在する「江津湖」はどうなのだろうかと気になった。
熊本は日本でも有数の地下水が豊富な地域として知られるが、大きな地震の影響で表面では判断出来ない何か問題が生じたとしか考えられず、また美しい湧水が戻って来るようにと思う愛永だった。
3日目、観光組合で結成した被災地支援チームが交流のある現地の温泉観光地に行き、宿泊も不可能と聞いていたので福岡市内のホテルと基地として、8人乗りのワゴンのレンタカーを借りて国道や幹線道路を走行したが、被災地に近付くに連れ道路環境が劣悪になり、かなりの渋滞だったので大変だったと同行していた夫から報告があった。
水道、電気、ガスなどのライフラインだけではなく、観光地の「命」とも言うべき源泉にも異変が発生している事実に衝撃と苦悩の現実があるようだが、随分昔からその地の源泉に詳しい人物の調査で再開が可能ということが判明して安堵しているそうだ。
お互い様という言葉があるが、地震の多い火山列島である我が国なので何時何処でこんな災害が発生するかは不明で、それこそ助け合わなければ将来は不安そのものである。
これまでご利用くださったお客様には様々な災難に遭遇されていた体験談を拝聴したこともあり、阪神淡路大震災、中越地震、東北大震災などで避難体験のある方もおられたが、こうして温泉地に来られるようになったことが信じられないけど生きていることの喜びを実感していると言われた言葉が印象に残っている。
少し離れた町にある大型スーパーに買い物に出掛け、私鉄を利用して最寄り駅まで戻ったら、行く時にはいなかった高校生達が十数人で募金箱を手に通行する人達に呼び掛けていた。
「がんばってね」と声を掛けて募金箱に協力をした愛永だったが、「いつから始めたの?」と質問したら「生徒会で話し合って今日から」と返されたので、つい「もっと早く始めるべきでしょう」と説教的な発言をしてしまって反省しながら戻り、それを夫と電話で話したら「老婆心でもなく暴走老人と思われたかも」と言われたので反省した。
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