先代女将が急逝したのは昨秋だった。まだ60代という年齢だったが、持病である若い頃からの高血圧による動脈硬化が影響したみたいで。脳出血という想像もしていなかった出来事だった。
女将の伴侶であった先代社長の数年前に亡くなってしまい、後継者が若旦那から社長となって現在に至るが、この旅館に嫁いで若女将と呼ばれるようになって女将から指導を受けていたのに、まだ一人前に到達していない状態で女将にならなければならず、毎朝仏壇に「今日も行って参ります」と手を合わせて女将の激務をこなしている。
そんな伊都子が数日前、大学時代を過ごした名古屋市内の友人達と会うことがあり、1泊で名古屋へ行って来たが、死ぬまで交友を続けましょうと約束した4人が久し振りに集まったので、待ち合わせをしていた名古屋駅の構内で全員が揃った瞬間から一気に青春時代の郷愁に浸り、中心部にある知られるホテルの和室を予約。4人が同室という行程を組んでいた。
夕食は結婚後に名古屋市内に在住している友人の勧めで「串カツ」の食べ放題という店に予約を入れたが、この店のシステムはユニークで、串に刺された様々な具材を自由に取ることが可能で、それを自分達のテーブルの中央に設けられている設備で揚げるというものだが、アルコール類は別勘定で注文することになっているが、それ以外は全てドリンクバーで自由にというものだった。
「串カツ」にする具材は20数種類と豊富にあり、デザートも何種類もあるので若い人達に人気のようで、午後7時頃には満席状態となった。
テーブルへ案内してくれたスタッフが店内システムの説明をしてくれたが、2時間の食べ放題だが、取り過ぎて具材が余るようなことがあれば料金が課されることもあると言っていた。
串は竹の棒で清潔な感じだったが、具材が小さくて頼りないのが難点。また「アサリ」の串を油の中に入れていたら内部に残っていた水分が出て破裂したみたいな状態になり、誰も火傷をしなかったので幸いだったが、一つ間違えれば大変なことになる危険性を秘めていた。
女が3人寄れば「姦しい」という言葉があるが、それが久し振りの4人となったらにぎやかなことは当たり前。食べ終わった串の本数を目にして4人とも「よく食べたわね」と驚いていた。
食事を済ませてからホテルに戻り、今度は2次会ということでホテル内にあるバーへ行ったが、バーテンだーの話題が豊富で、あまり飲めない伊都子もバーテンダーの勧めで何倍か見た目に鮮やかなカクテルを数杯飲んだら酔いが回り、初めて酔っぱらったような体験をした。
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