瑠璃子が女将をしている旅館が大規模なリニューアルオープンしたのは半年前だったが、その時に意識改革から実行したことが話題になっている。
それは、和服だった仲居の服装を全て洋風の制服に変更。利用されるお客様達から「ホテルみたいだね」というお声を多くいただいている。
そんな意識改革に至った背景にはご挨拶に参上した際にお客様の話に感銘を受けたからで、ある企業のトップの方が取引されている会社のことだった。
「女将さん、世の中には様々な考え方があるが、私の会社が取引をしている会社が素晴らしくてね、社員の制服は全てその会社を指定しているのです」
その会社は広島にある通販専門の制服会社で、ありとあらゆる制服の企画販売をしているのだが、先代社長の哲学が素晴らしく、その事実を知った多くの経営者がその会社の制服を採用している事実があった。
「先代の社長はね、年賀状を書き上げて発送する前に出雲大社に持参して祈祷をして貰い、『この年賀状を受け取る皆さんがご健勝でご多幸を』と願ってから投函され、新しい制服のパンフレットが完成したら同じように持参し、『このパンフレットで当社と取引くださる会社が隆盛されますように』と祈願され、それから郵送されるのだから信じられないでしょう、私はその会社を訪問してそれが本当だったことを知ったのです」
その会社が創作する製品は徹底したリサーチやその制服を必要とされる業界の意見を聞き、一流デザイナーがデザインを手掛け、品質に対する拘りも半端じゃないことを知った。
リニューアル工事が始まる半年前にその会社に電話を入れ、旅館にパンフレットを送って欲しいと伝えたら、その次の日にチーフという役職の素敵な女性がわざわざ持参してくれ、その日は当館で宿泊を招待するつもりだったが、「仕事と宿泊利用は別です」と宿泊料金を負担され、夜遅くまで夫である社長と共に制服に関する知らなかった世界を拝聴。夫婦の意見が一致して仲居の和装を取り止めることにしたのである。
持参されたパンフレットの中に幾つか気に入った物があったが、彼女はこの旅館のイメージを考えて新しいデザインを提供したいと言われ、何度もメールでやりとりを行って素晴らしい制服が完成したのである。
「言は動を変える」という言葉がある。これは言葉遣いが丁寧なら所作や仕種も丁寧になって美しいというものだが、同じように服装を変えると所作や仕種も変わるもので、「和服でなくなるのですか?」と反対していた一部の仲居達もその制服を目にして「これ格好いい」と賛辞し、お客様への対応する姿も何か向上したように思えて喜んでいる瑠璃子だった。
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