憲子が女将をしている旅館に今春に入社した女性スタッフにスタッフ達が驚いている。夫である社長なんか「最高のスタッフが入社した」と喜んでいる。
彼女はIT技術に長けている。これまでそれらを担当していた永原君という男性スタッフが「普通じゃない」と言う程のレベルで、憲子は彼女の企画力の凄さに驚嘆している。
入社して1ヵ月も経たない内に専用のフォームを構築し、そこに宿泊されたお客様の全ての情報を入力されており、お食事の際の料理で残された物まで整理されているのでリピーターのお客様を歓迎する際に大いに役立つことになる。
「私、こんな仕事が大好きなのです。ここに就職出来て遣り甲斐があって喜んでいます」と嬉しい言葉を憲子に語ってくれたが、永原君が「彼女は凄いです。個人情報が流出しないようなセキュリティガード対策まで組まれていますから」と改めて驚いていた。
料理に関する情報は厨房の協力が不可欠だが、入社後に料理長や厨房スタッフと話し合い、皆が感心して協力してくれることになっていた。
部屋担当の仲居達も彼女に様々なお客様情報を届けてくれる。お食事のお世話をしている時に耳にした情報をメモしてくれるのだから有り難いし、彼女は注目をされると共に愛される貴重な存在として認識されるようになった。
ホテルか旅館で仕事をしたいと言っていた彼女の面接をしたのは女将夫婦だが、「どうして当館を?」と質問した時に「HPのセンスがよかったからです」と答えたことが印象に残っている。
言葉遣いもいいし、第一印象も悪くないのでフロントも担当させたいと思っていたら、彼女は「仲居さんの仕事にも憧れています。いつかやらせてください」と数日前に言ったのでびっくりした。
「彼女は掘り出し物だよ」と料理長もべた褒め。もう「人材」から「人財」になっているみたいで、夫が秘めていたやりたいことを具現化させるには「彼女の協力に期待する。不可欠だ」と言っていた。
実家は両親が割烹をやっているそうで、高校生時代から料理を部屋へ運ぶ手伝いもしていたそうだが、大学に入学して出逢った教授がITの専門家で、一気に興味を抱いて取り組むようになった経緯があった。
実家を手伝っている時に自分が接客業に向いていると思っていたそうだが、ホテルや旅館で大学時代に培ったIT技術が活かされたらと就職先を選択していた。
彼女がこの旅館に興味を抱いたきっかけとなった「センスの感じられるHP」だが、それを製作担当したのは永原だったが、その彼が「彼女のIT技術は凄いレベル」と言うのだから間違いないだろう。
憲子は彼女の入社を心から喜びながら、夫と計画していたことを彼女の力を借りて実行してみようと考えていた。
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