夫は朝食が済むと書斎でノートパソコンを開いて情報を調べている。旅行会社のツアーではない2人だけの完全な個人旅行なので自分達の責任で現地行動をしなければならない。ましてや言葉に全く自信のない2人が入国手続きやホテルのチェックインをすることになる。またもしも体調不良になったらどうするかと警察や救急車の手配の方法や、日本語対応が可能な病院の情報確認。次に所持しているクレジットカードを紛失した場合を想定してカード会社の連絡方法。そして、現地の大使館や領事館の電話番号も調べておくことも重要で、パスポートを盗難などで紛失する可能性もあるからだ。
昼食時に夫が嘉代子に「医院の先生にお願いして来てくれ」と言った。それはずっと処方されている薬に関する英文の処方箋とそれぞれの薬の名称と成分と効能の英文説明で、オーストラリアは入国審査の税関で厳しいということへの対策だった。
バファリンと正露丸などの市販薬、また、目薬を薬局で購入してそのまま封を切らずに持ち込むことも大切で、封を切ってあると別の薬に入れ替えたと誤解される危険性があるからだ。
そんなことを言われると何か出掛けるのが不安になるが、何事にも最悪の想定をしてから行動する夫の性格を理解しており、全て夫の言う通りに対応しようと考えていた。
医院へ行って先生にお願いすると、何度かそんな対応をされたこともあるみたいで、「オーストラリアへ行かれるのですか?お菓子などの食品の持ち込みも厳しいから気を付けて」とアドバイスをされた。
戻ってからその話を夫にすると、機内で出されるような菓子でも駄目だそうで、没収で済めば幸いだが、罰金を科せられるケースもあるのだから要注意と教えられた。
2人のパスポートが揃うと旅行会社の課長がやって来て手続きを始めると聞いた。オーストラリアへ入国するには前以って決められている手続きがあって先に入国申請をして許可を貰っておく必要があるそうだ。
アメリカも同じだそうだが、世界的にテロが発生している時代なのでこんな対応で入国管理をしていることを教えられた。
課長が「これをどうぞ」と置いて行ってくれたのが外務省の発行している「海外旅行の虎の巻」で、そこには初めて知る様々な問題が詳しく解説されていた。
航空券や鉄道の予約は全て「Eチケット」というシステムでメール送信されて来たが、これをプリントアウトした物を所持して提示するかスマホの中に登録しておく方法もあったが、2人はアナログ的にプリントの方が安心出来ると準備していた。
やがて課長から「ETAS」もOKですと電話があったが、それは観光ビザみたいなもので、手数料を支払えば旅行会社が代行手続きをしてくれるものだった。
夫が何かを調べている。何をしているのかと尋ねたら、「入国カード」と「出国カード」の書き方で、全て英文で書き込まなければならないが、職業欄に「女将」はどのように表記するべきかと話題になり、嘉代子が「OKAMI」て国際通用語になっていないのかなあと冗談を言うと、「主婦」にしておこうと返された。
入国カードは搭乗している機内で貰うそうだが、目的や滞在地、滞在日数、連絡先などを記載する項目もあるが、どの欄に何を書くかを憶えておかなくては英語表記の理解は難しく、利用した便名も書き込む欄もあることを知り、「あなたにお任せね」と夫に全てを頼む嘉代子だった。 続く
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