百合香が女将をしている旅館のフロントは24時間対応となっている。それはロビーから通じる廊下の先にある大浴場が24時間対応よなっているからで、それはこの旅館の特徴でもあった。
浴室の清掃の時間が午前4時半から6時まで設定されており、それを機に男性と女性の浴場を変更させているが、それを待って朝風呂を楽しみにされる人も多く、午前6時前にフロント前のロビーが賑やかになる。
防犯のために玄関は午後11時に閉められるが、温泉街に飲みに出掛けているお客様もあるので玄関にはフロントにつながるインターホンが存在している。
深夜業務は原則として2人以上が当直というシステムで対応している。もしも深夜にお客様が急病になって救急車を手配して病院へ同行しなければならないことも考えられ、1人だけでは問題があることから決められたものである。
百合香はプライベートの携帯電話の他に、旅館専用の携帯電話を持っており、緊急時にフロントスタッフが掛けて来るシステムになっているが、その緊急時の中の一つが救急車を手配した場合で、百合香はすぐに病院へ駆け付けることにしており、過去に2回体験している。
突然体調に異変を来された場合は脳疾患と心疾患が考えられるが、どちらも時間との問題があり、情報を入手したと同時に救急車を手配するマニュアルになっており、情報入手時間、相手名、救急車要請電話時間、救急車到着時間、救急車出発時間などを記録する専用カードも存在している。
女将として最も心配するのは食中毒の問題で、緊急専用の電話が鳴るとそのことが過るのも宿命であり、神経性胃炎という職業病みたいな症状があり、医師から処方された薬を服用している。
未明に緊急携帯電話が鳴ってびっくり。フロントスタッフから救急車を手配したと聞いて緊張したが、ご高齢のご夫婦の旦那さんが「こむら返り」みたいな症状で奥さんから電話があり、最悪の想定を考えるマニュアル通りに救急車を手配したと知った。
30分程経つと、県立病院へ同行したスタッから電話があり、注射1本で治まって心配ないそうで安堵したが、朝食時に特別料理でもと考える百合香だった。
早朝に出勤し、お客様カードで情報を確認したら、東京から来られていることが判明。料理長に茶粥を頼んで百合香自身が対応して深夜の出来事について「大変でしたね」と対応すると、恐縮されて「もう大丈夫です。ご迷惑を掛けました」と感謝の言葉を頂戴した。
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