高速道路のインターチェンジに直結する国道を20分ほど北上すると橋のある交差点があるが、この橋を渡って川沿いに10分ぐらい走ると20数軒のホテルや旅館がある温泉地に着く。
そんな中に艶子が女将をしている旅館があったが、この温泉地は2年前に大変な問題が発生し、観光組合や行政を交えた連日の会合が開かれていた。
地元の信用金庫の不良債権が表面化。法的に破綻処理をされたことから取引をしていた2軒のホテルと1軒の旅館が閉業を余儀なくされてしまったからである。
それから一ヶ月も経たない内に大手リゾートグループが入手、大改造を施して昨年にオープン。すぐにもう1軒のホテルも全国に展開する低料金を売り物にするグループ会社が買収。リニューアルを施して3ヵ月前に営業を始めている。
残る1軒の旅館は組合長を務めるホテルが入手して姉妹館として営業することになったが、ここに至るまでの経緯はそれこそ波乱万丈の出来事があった。
急に3軒の宿泊施設が閉業するということから温泉街が歯抜け状態になってしまい、来られるお客様達へのイメージも悪く、廃墟になることを思えば歓迎するべきことだが、航空会社の世界で「LCC」みたいなホテルが登場すると様々な変化も生じることも事実で、観光組合の会議で源泉権を組合で管理するべきという意見まで飛び出す騒ぎとなっていた。
低料金を謳うシステムは所謂「人」のサービスを徹底して少なくしたもので、フロントでチェックインを済ますとすぐに浴衣を選ぶコーナーがあり、そこで好きな柄と自分のサイズに合った浴衣を持って部屋に行くと、すでに寝具が敷かれているというもので、仲居というスタッフが不要となる訳で人件費というコストが省かれる発想だった。
食事は夕朝食共レストランでのバイキング形式で、最近に耳にする「女子会」のような若い女性達のグループに歓迎されているようだ。
また、都市圏から格安の専用バスの存在があることで、JRを利用するよりはるかに低料金なので利用する人達が多い。
組合長のホテルが姉妹館としてリニューアルオープンした旅館はユニークな発想をしており、格安料金に対抗するような企画だが、バイキング形式でもそれぞれのお客様のメイン料理が準備されており、それ以外はバイキングという形式で、その分が差別化というのだろうか少し料金が高くなっていた。
組合長のホテルの総料理長はその世界でかなり著名な人物で、姉妹館をオープンさせること自体に反対の姿勢で、格安料金なんて絶対に不可能な状況だったが、この廃墟になってしまうかもしれない旅館を別の格安グループが進出すれば温泉地のイメージに変化が生じるという説得で実現することになったが、バイキングだけではなく一品だけは拘ると言うのは総料理長が折衷案として出したものだった。
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