ずっと昔から交流のある大手旅行会社の管理職の方が、奥様とご両親を伴われてご利用くださっている。部屋食でのお食事の時にご挨拶に参上したが、女将の舞奈が全ての部屋を回ってフロントへ戻り、しばらくすると食事を終えられたその人物がやって来られた。
ロビーでお茶を出して最近の旅行業界の情報などを伺っていたら、信じられない話が出て来て衝撃を受けた。
「最近はねオレオレ詐欺に気を付けなければいけないけど、我々旅行関係者を語られる詐欺が登場しているみたいでびっくりしたよ」
旅行会社を語る詐欺とはどんな手口なのだろうか。舞奈が質問するとその手口について教えてくれた。
「JRのクルーズ列車の『ななつ星』の人気が高くてプレミアムチケットになっているだろう。またJR東日本が来年から運行する『四季島』やJR西日本の『瑞風』も話題を読んでいるけど、この詐欺はそんな観光列車を利用する劇場型と言われているのです」
そんな彼の言葉にその先にある本題を知りたい舞奈は、驚く表情を見せ場柄次の言葉を待った。
「旅行会社です。アンケート調査にご協力をという電話が切り口でね、『ななつ星をご存じですか。チケットが入手で来たら利用されたいですかと聞いて来るらしいけど、もしもお客さんが『知っている』とか『興味がある』と答えたら、すかさず『チケット入手が可能です、料金は予約が取れてからの払い込みですので今は必要ありません。ただ人気が高いので毎日端末を叩いて予約申し込みをする必要があり、1週間ほど要します』と言って来るのです」
料金は今は不要。予約が取れてからという言葉に安心する仕掛けみたいで、所謂成功報酬型詐欺と呼ばれる手口だった。
「1週間ほど経つと『予約が取れました。今年の秋の分ですが、すぐに振り込んでいただかなければキャンセルされますので如何なさいますか?』と問われたら『振り込みます』となって振込先を教えられるのですが、これは特別ルートを経ていますので私の勤務する旅行会社ではなく、JRのAさんの口座が窓口になります」
「ななつ星」のスイートなら2人で大変な高額となる、指定口座に振り込んでもチケットがいつまで経っても届かないのは当たり前だが、詐欺を働く連中も社会のニーズや流れを読んでいるようである。
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