ホテルや旅館の経営も厳しい時代を迎えている。遠い昔から継承されている伝統のサービスを好まないお客様もおられるので難しいし、何を望まれるかを把握して個別なサービス提供をしなければならないというコンサルタントの指摘も気になっている。
50軒近いホテルや旅館が存在している温泉地に光乃が女将を務める旅館があるが、古い木造建築の2階建ての旅館が独特の情緒があると言われているが、館内のあちこちに「綻び」が目立つようになり、社長である夫が「もう限界かも」という言葉を発するようになっている。
廊下や柱は徹底的に磨き上げて来た歴史の艶があるが、ご利用くださるお客様がそんな文化的なことを評価されることはなく、現実的な部分でどうにもならない状況という思いを抱いているのも女将夫婦の悩みだった。
リニューアルするべきか建て替えるべきかという迷いもあるが、こんな旅館でも気に入って何度も来られているお客様もあるので中々決断出来ず、この一年の夫婦の会話はそのことばかりだった。
番頭をはじめ仲居達スタッフの中にもそんな会話が交わされているが、建設に進むとなれば完成までの期間の雇用関係がどうなるのか分からず、生活が懸かっているところから聞き出すことも叶わないという事情も秘められていた。
競合する旅館やホテルの打ち出すサービスも変化して来ている。「エコ」をテーマにして家庭の使用済み天ぷら油を500ミリボトルで持参された方には「1000円」割引というのもあるし、車で来館されたお客様には提携する地元のガソリンスタンドで「10リットル」の給油が出来るというのも登場している。
光乃の旅館にはある季節に限ってお土産のプレゼントがあって喜ばれている。駐車場に隣接している所有地が竹藪になっており、「タケノコ」のシーズンに来られたお客様には番頭が当日の朝に掘った「タケノコ」を持ち帰っていただくことが10数年前から続いており、それを楽しみに来られるお客様もあるので嬉しいことである。
来週に建設会社と建築士の方が来館されることになっている。まだ決断には至っていないが、どの程度の規模で予算がどれほど必要かということを参考に知りたいからで、1ヵ月程前に地元の建設会社に相談をしていたからだった。
スタッフ達が気になっている施工期間の問題は経営者側にも大きな課題となっている。その期間の予約は不可能となるし、その旨を旅行会社やHPで告知する必要もあるのでスケジュールについても慎重に進めなければならないが、スタッフの給与保障に関しては満額とは難しいが出来る限り対応したいと考えていた。
数年前から取引銀行とも話し合っており、建設資金に関しては有する広大な土地が担保になるので障害はないが、最も懸念することは新たにオープンしてからのことで、どんなコンセプトの旅館経営にするかによって全てが変わって来るところから、コンサルタントや情報誌を集めて取り組んでいる昨今であった。
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