交通量の多い国道の峠を越え、下った交差点から県道に入るとすぐに温泉地がある。
十数軒のホテルや旅館が存在しているが、奈美恵が女将をしている旅館には他の宿泊施設にはない環境が売り物で。それは先代社長の趣味から始まった歴史があり、「ヘラブナ」や「鯉」を釣りに行く道楽が高じて、この温泉地にある池に面する土地を購入し、各客室から釣りができるということから知る人たちには人気が高く、知らずに予約されたお客様も楽しまれることがあって病み付きとなり、リピーターとして何度も来られているお客様もある。
数年前までは「ヘラブナ」しか放流していなかったが、ちょっと技術を要する釣りなので、釣れ易い「鯉」を豊漁したことで、初めての人でも釣れるようになった。
竿、竿受け、釣り糸などの仕掛け、浮子、玉網、餌などのセットは要望があればすぐに対応出来るようにしており、糸のつなぎ方や釣針などの括り方を仲居を含めた全スタッフが学んでおり、ご夫婦で釣りを楽しまれる光景は何とも長閑で旅の思い出の一つとして公表を博している。
「これだったらもっと早くにチェックインをするべきだったわね」「明日のチェックアウトはゆっくりとしましょう」なんて会話を交わされることが多く、体験された方々が楽しんでおられるようだが、初めての人でも隣室の人が釣り上げている光景を目にするとやってみたくなるようで、「私達もお願い出来ますか?」とフロントに電話が掛かって来る。
「ヘラブナ」は草食系の餌だが、「鯉」は雑食なのでキャベツを餌にしても釣れることがある。結構広い池だが、放流されている魚達に餌を与えているのは客室からの釣りだけなので自然と魚達が集まっているので釣れ易くなっている。
しかし、夏のシーズンは蚊の問題で大変だ。そのことを伝えて窓を閉めて桟橋に出て釣っていただくようにしているが、虫除けのスプレーなども準備して対応しているが、最近は予想もしなかった出来事が起きている。
他のホテルや旅館に宿泊している方々が部屋の中から釣りをしている光景をご覧になり、旅館側を通して「釣らせて欲しい」と申し込まれるからだ。
この池は田畑の推理のために作られた造成池で。管理しているのは地元の農家を纏める団体であるJAだが、釣りに関する問題はなく、先代社長が釣りをやるということから遊漁権契約を結び、今では考えられない僅かな金額だったことを聴いているが、2年前にあまりにも安過ぎるということをこちらから提案、年間契約の費用を改定しており、各ホテルや旅館も負担金を支払って協力してくれており、温泉地の集客につながればと専門家を招いて釣りの勉強会も行っている。
奈美恵の旅館の料理長も先代社長の影響からヘラブナ釣りに造詣が深く、自分で「浮子」を手作りしているのだからびっくりだが、彼が大切にしている名竿と称される「竹竿」は1尺「50000円」もするそうで。15尺の竿なら「750000円」もするのだからびっくりである。
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