千里が女将をしている旅館には27名の仲居が勤務している、その中で自分の家から通勤している人が16名、残りの11名は旅館のすぐ近くにある寮での生活を過ごしている。
寮生活の中で子供の存在があるのは二組だけで、他は全て独身者と単身者である。
二組の親子の中の一方に配慮しなければならない問題があった。役所からも指導されているが、それは子供の通う学校にも連絡されており。彼女の境遇をフォローしなければならないようになっている。
詳しい事情を聞いているが、夫の病的なDVから逃避して親子で生活をしているもので、夫の実家のある地域、また夫婦で生活をしていた地域に近い住所のお客様があれば内勤に変更するようにしており、そんな事情は一部のスタッフが理解していた。
この地にやって来た縁というのが不思議なもので、彼女が生活をしていた家のすぐ近くにあるお寺の住職が協力してくれたからで、子供はその住職が園長をしている幼稚園の園児だった。
近所の誰もが知る夫のDVの酷さ、特に飲酒すると手が付けられなくなる状態で、見兼ねた住職が地域の役員の人達と相談して行動したものだが、この地にやって来たのは住職の友人のお寺があるからで、ここへ来ていることを知っているのは住職だけという秘められた事実があった。
彼女の両親が原告となって被害届を提出して離婚の手続きを進めているが、彼女がいなくなってから飲酒が酷くなったみたいで近所の人達も困っており、警察が対処するようになっているのでもう少しで法的な解決が出来るだろう。
それまでは何とかして守って上げなければと思う千里だが、温泉地のすぐ近くにあるお寺の住職とも絶えず連絡を取り合っており、問題の夫の情報も入手して彼女に伝えている。
もう子供も小学生となっているが、先生や友人達に恵まれているようで、時折に旅館にやって来るが、明るくて可愛い女の子に育っており、旅館のスタッフ達からも可愛がられている。
夫のDV問題は少なくないようで、役所や学校のうっかりミスで情報が流れてしまって大きな問題になったこともニュースで話題になったこともあるが、決してそんなことにならないように関係者が互いに結束して彼女と子供を守っている。
彼女は素晴らしい女性である。お客様への接遇も優れているし、スタッフ達との関係も良好なので嬉しく見守っているが、この旅館でずっとスタッフでいて欲しいと思っている千里だった。
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