大手旅行会社の部長さんが来館された。女将の璋子が若女将の頃から交流のある方で、地元の観光協会が開催したイベントの来賓として参加されていた。
いつも特別に送客で配慮くださっていることもあり、ゆっくりと宿泊されたらとお勧めしたら、仕事が大変で日帰りで帰京されると知ってラウンジでコーヒータイムとなった。
そこで交わされた雑談の中に意外な問題があることを学んだ。それはホテルや旅館が開設しているHPに関することで、粗末な感じのするHPはそれだけで折角訪問されても閉じてしまう結果となるが、一方で立派過ぎるHPにも問題が秘められているということだった。
「女将さん、例えばね、部屋の内部や料理の紹介写真が立派だと『HPとイメージが違う』というギャップが生まれ、紹介した我々旅行会社にクレームが入ることもあるのです」
この「程々」「適当」というイメージは本当に重要なもので、勝手な想像を膨らませることは罪ではないが、「話が違う」「騙された」と思われたら最悪で、自社をよく見せようとする行動が思わぬ結果を招くこともあることになる。
「ホテルや旅館のHPで建物の外観写真が掲載されていないところは古いという定説があります。お客さん達もそんな情報を掲示板や口コミサイトでご存じのようで、我々の窓口でお勧めするホテルや旅館を持参されているスマホやタブレットからネットで目の前で確認されるのですから難しい時代になりましたね」
そのことを耳にして窓口でのやりとりを想像した璋子だが、ネット社会になって予想もしなかったことが現実に生じている事実を学んだ。
「お客さんが利用されたホテルや旅館をブログで紹介されているケースも増えましたし、知らないところで多くの評論家が存在している事実もあるのですから考えてみれば恐ろしいことです。意図的に悪評を書くことも可能なのですから厄介なのです」
そこから話題はネット社会になって登場した紹介トラベル会社の口コミサイトについて言及があった。
「実際に利用した人しか書き込み出来ないシステムにはなっていますが、ホテルや旅館が紹介手数料だけを支払えば自由に書き込み出来る訳ですから、自社を褒め称え他社を貶すことも漢単に出来るということになり、そんな経費は広告宣伝費と考えれば安いものとなるでしょう」
トラベルエージェントの手数料は10%が一般的だが、例えば1泊2食付き2万円の旅館が誰かが利用するように予約を入れ、エージェントに2000円を支払えば書き込み出来るのだから問題である。口コミサイトに勝手に高評価を作文しておけば、それを信じた人達がやって来ることになる訳で、ここにネット社会の隙間があるように思えてならない璋子だった。
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