麻衣子が女将をしている旅館の社長は夫だが、彼の妹が大学を卒業後に東京で知り合った人物と結婚し、熊本県の大牟田市で生活をしている。
彼女の夫は地元の私鉄の管理職だが、来年に定年予定だったのに大きな地震によって自宅が被害を受け、実家のある福岡県柳川の地に身を寄せていたが、銀行の融資と善意的な退職金の前借で自宅を再建することが出来、やっと完成することになった。
終の棲家になるが子供達もそれぞれの家を有しているので2人だけの生活となり、2階建ての瀟洒なつくりで設計されていたが、地震対策として免震対応がされていた。
そんな自宅の完成祝いに夫婦で出掛け、日帰り予定だったのに「予約してあるから」と夕方に車で案内されたのは大牟田市内の中心部から30分程にある「平山温泉」で、田園地に十数軒の旅館が点在していた。
温泉としての歴史は古いそうだが、地元の人しか利用しなかったものが口コミから広がり、次々にユニークな温泉施設や旅館が進出、女性が灯籠を頭の上にした傘灯籠踊りで知られる山鹿温泉の奥座敷として話題を呼び、今では黒川温泉のような人気が出ている。
夫婦が利用した旅館は二つのエリアに別れてそれぞれに山門みたいに玄関が存在するのでびっくりしたが、全てが離れという設えになっており、それぞれ異なった部屋風呂もユニークだった。
部屋に案内されてテーブルの上に置かれたお菓子を見ると、この地ので人気の高い「きんつば」だったが、その横に女将からのメッセージカードがあり、「お帰りなさい」と書かれてあった。
食事は夕食、朝食共に食事処となっていたが、個室ではないがそれぞれの宿泊客が分離される配慮がされており、如何にも田舎でしか食べられないようなメニューも入っており、自分の旅館と全く異なる環境を学ぶことになった。
夕食が終わろうとする頃、世話を担当してくれていた女性スタッフが目を引く物を持参してくれた。それは竹の皮で家の形に作られた器で、夜食用のオニギリに漬物が添えられており、夫が「これ、中々面白いなあ」と感心しながら写真を撮影していた。
部屋の風呂も岩風呂でユニークだったが、折角なので露天風呂へ出掛けてみたらこれがまた中々のレベル。夫も「利用客の土産話から広がるだろうな」と設計コンセプトを賛辞していた。
次の日、朝食を済ませてしばらくすると妹夫婦が車で迎えに来てくれたが、「昼食を予約してあるから」と案内してくれたのが柳川で知られる鰻料理の若松屋で、店の前を流れる川などで「お堀巡り」の川船もあるそうだが、それを目にして思い出したのが大相撲の琴奨菊関のこと。この地の出身で川下りをされている光景をニュース映像で観ていた。
帰路は筑後船小屋駅まで送って貰い、「つばめ」で博多に出て「のぞみ」に乗り換えて戻って来たが、参考になることが多かったと夫婦で話していた。
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