奥深い山間部に昔からある温泉地だが、泉質が優れていることが知られており、特に飲泉の効能が顕著というところから人気があった。
そんな中に琴美が女将をしている旅館があるが、結構高額な料金設定にも関わらずびっくりするほど客室稼働率が高かった。
こんな状況になった背景にはネット社会の恩恵があると言えるもので、温泉情報などのサイトから目立つ存在になっており、来館くださったお客様がブログなどで紹介されることが好循環となり、数軒しかない辺鄙な地の温泉地が賑わっている。
最寄り駅はJRなのだが、特急列車が運転されていないローカル線で、1時間に1本の快速列車が存在していた。
そんな中、JRと旅館組合の共同企画で随分前から話し合っていた観光列車が実現することになり、12月から運転されるのを前に様々な打ち合わせが行われている。
この観光列車の特徴は車内での飲食販売が充実し、特に各旅館の料理長達が創作プロデュースした駅弁が売り物で、日に2往復しか運転されないが観光情報誌で紹介されて大きな話題を呼んでいる。
車内で接遇を対応するのは旅館組合から派遣される各旅館の仲居達で、様々な分野の講師を迎えて16時間の研修講義を受けている。
JRの指導では事故対応も学んでおかなければならず、何かが起きた時の乗客の安全誘導については特に厳しい指導が行われていた。
そんなところから服装も和服ではなく洋服の制服が決められ、お披露目会でその制服を目にした時に思い出したのが昔に博多と鹿児島間を走っていた「特急 つばめ」の客室乗務員の制服で、夫と乗車した際に一緒に記念写真を撮影していたことがあったからだ。
観光列車は2両連結で各シートにテーブルが付くので定員も少ないし、一部の席は車窓の光景を楽しめるように窓側向きに座席をセッティング可能にしてあった。
路線の途中で渓流が続くところがあり、そこでは速度を落として運転されるそうだが、乗る楽しみという単なる移動手段から発想転換をして、鉄道の車内のお弁当というコンセプトに特化していた。
何度も合議した中でユニークな提案もあった。最終的には却下されてしまったが、車内で飲泉出来るようにならないかということだった。
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