里佳子が女将をしている旅館がある温泉地には20数軒のホテルや旅館が存在しているが、最近に話題になっている話がある。
それはこの地に昔から在住されるご夫婦とも教員だったお二人だったが、どちらも定年退職をされたのだが、ご夫婦には一人娘がおられ、名古屋の大学を卒業と同時に地元の信用金庫に就職したのだが、本店のある名古屋から就任されて来た支店長さんと結婚し、子供が誕生した頃には名古屋で賃貸マンションで生活をしていた。
予想外の不幸が起きたのは子供が幼稚園に通うようになった年だった。ご主人が飲酒運転の車に巻き込まれて被害者になり急逝されてしまったからである。
その後に子供さんを連れて実家に戻った娘さんだったが、家の外に出ることもなく、誰もがお気の毒と思いながらなんとかして上げたいと思っていた。
そんな彼女に転機が訪れたのは同級生だった女性が同じような不幸に遭って東京から実家に戻ったことで、互いが慰め合っている内に子供を立派に育て上げる責務に気付き、2人で働こうと勤め出したのがヤクルトの販売員で、元気いっぱい走り回る2人の姿に温泉街が明るくなったように思えた。
ヤクルト販売員は道で会う全ての人に「おはようございます」など挨拶の言葉を掛けるが、ホテルや旅館の中にはスタッフのために定期的に申し込んでいるところもあり、多い所では毎日10本以上を届けるケースもあった。
そんな中で彼女に恋心を抱き始めた人物がいた。この温泉街の大規模なホテルの後継者で、7年前に結婚をした相手を若女将として迎えて活気のあるホテルとなっていたのだが、その若女将が自転車で県道を走行している時に居眠り運転のトラックに巻き込まれて亡くなってしまったからで、彼がヤクルトを配達にやって来る彼女を見初め、両家の両親の話し合いを経て再婚ということになったのである。
娘さんも小学校に通うようになっているが、取り敢えずは祖父母と一緒に暮らすことになったそうだが、今回の再婚話はこの温泉街の誰もが歓迎することで、みんなが「よかった。よかった」と祝福している。
彼女が若女将としてこの温泉街に花を咲かせてくれるように思う里佳子だが、女将会で顔を合わすことになるだろうが、彼女の性格の素晴らしさは誰もが知っており、きっと誰からも可愛がって貰えるだろうと想像していた。
毎日全国で多くの交通事故が起きている。里佳子の旅館にも送迎用のマイクロバスをはじめ数台の車を所有しているし、通勤に車や単車を使用しているスタッフもいるのでいつも安全運転を訴えており、法で定められている責任者の受講義務も欠かさず受けており、可能性は少ないと思うが、お客様の中で「ちょっと買い物に」と飲酒運転で出掛けることのないようにと飲酒運転撲滅のポスターをあちこちに掲示している。
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