結子が女将をしている旅館は和風だが、3年前に大規模なリニューアル工事をした時に和室でも別室にベッドの寝室のある部屋を数室設けたこともあり、ネットから直接予約をされて来るお客様がその部屋を指定されることが多くなっている。
最上階にコネクティングルームを4室設えたことから、そんなご要望のお客様を同日に2組まで対応出来るようになったが、これもネットからの稼働率が高いので喜んでおり、社長である夫は「リニューアルの決断は英断だった」と鼻を高くしているこの頃だ。
今日のご予約の中にコネクティングルームを指定されているお客様がある。3世代のご家族旅行だそうで。ご高齢のご夫婦は和室を利用され、洋風になっている部屋を息子さんご夫婦が使われるようで、2人おられるというまだ幼いお孫さん達はどちらの部屋でお休みになるかは不明だった。
三世代のご旅行で来られるケースも増えているが、これは随分昔からあったことで、コネクティング対応をしていなかった当時は隣同士の2室をご用意し、廊下を経由して隣室に往来して貰っていたが、コネクティングルームが完成してからは部屋の中から自由に行き来可能となっており、「3世代」というワードはホテルや旅館のHPにあっては欠かすことの出来ないテーマとなっている。
コネクティングルームをつなげるところには日頃は二重の扉が閉められており、それぞれを独立した1室としてご利用いただいているが、扉の厚さもかなり重厚感があるもので、何よりお客様が不安を感じられないように防音対策を講じており、お部屋にご案内した際に担当者からその説明をするように決まっている。
さて、そんな今日のお客様なのだが、ご予約のお電話をくださった方から意外なことを頼まれていた。ご高齢のお父様が病気の後遺症から両足に知覚障害があって冷えの症状が酷く、夏でもやぐら炬燵を用いて寝具にセットされているそうで、何とか対応出来ないだろうかということだった。
結子の旅館がある温泉地の冬は雪の多いところで、各部屋にやぐら炬燵を設けているのだが、それは部屋食に対応可能なように長方形のタイプで、これを用いて寝具とセットするとはどうなるのだろうと思いながら、備品室に仕舞ってあったやぐら炬燵を部屋に運ばせ、
余分に炬燵専用の掛け布団をもう一枚用意させていた。
また、「アンカ」や「湯たんぽ」の対応も出来るので、それらも部屋に運んでおいたが、ご到着されてお部屋に入られてそれを目にされた際に喜ばれた表情は結子想像もしなかったもので、予約電話をくださったらしいお嫁さんも「女将さん、ご配慮くださって有り難う」と丁重な感謝のお言葉を掛けてくださり、部屋担当の仲居が「お祝儀」を頂戴して恐縮していた。
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