料理長が得意とするオリジナル料理がある。3年ほど前にそれがある著名な機内食のプロデューサーから話があり、航空会社の国際線ビジネスクラスの機内食として提供されていたことがあった。
料理長が空港近くの機内食専門の会社に行って何度も打ち合わせをして実現することになったものだが、それを実際に召し上がられた搭乗客が航空会社に問い合わせ、この料理を食べたいと旅館を利用された時は驚いたものだ。
そんな出来事は当館の自慢出来る誇りで、館内のロビーやエレベーターの中にも写真入りで掲示しているが、それをご覧になったお客様が部屋担当の仲居と話題になったり、ご挨拶に参上した女将の玲奈に質問されることも少なくなかった。
その料理というのは和風朝食で出される胡麻豆腐で、料理長が何年も研究して創り上げたオリジナルだった。この他にも玉子豆腐もセットで出されるのだが、この両方が機内食に採り上げられて話題になっていた。
機内シートポケットに航空会社の雑誌が入っているが、その中にも話題の機内食として写真入りで旅館と料理長の写真が掲載されたが、その時にこの旅館の女将として怜奈の写真とお客様の感想という形式で言葉も掲載されていた。
そんなところからこの料理が温泉地で話題になり、料理長の定期的な情報交換となっている集まりで研修テーマとなり、この温泉地のご当地豆腐として宣伝することになったのは今年になってからで、航空会社の雑誌の影響からか、想像以上に話題が広まっており、それを求めて当温泉地を訪れる人も増えたが、やはり怜奈の旅館に集中するのは当然だった。
何がきっかけで人生が急変するか分からないものだ。胡麻豆腐に長年取り組んで悩んでいた時に、閃いたのが宿坊体験研修で訪れた高野山で、そこで食事に出て来た胡麻豆腐に出逢ったことが今回の背景秘話になっており、そのことは航空会社の雑誌の紹介記事でも触れていた。
知らないところへ出掛ける旅も重要なことである。旅先で新しい発見をすることも多いし、サービスを提供する側と提供される側を学ぶことにもつながることで、怜奈は夫と2人で月に1回で掛けることにしているが、行先を決めるのは夫で、「よくこんなところを見つけたものだ!」と驚くことも楽しみになっており、いつも出発の時まで行先を秘密にしている夫だった。
数日前、夫が函館の情報を調べていた。コンビニの駐車場に軽トラックで販売に来る鮮魚店の「イカ」で、漁船から直接仕入れて30分も立っていない新鮮なもので、キロ1500円くらいから入手出来るそうだが、観光客が購入するのではなく、地元の住民の方々がお客さんとなっているそうだった。
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