旅館という仕事で仲居という存在が欠かせないが、看護婦さんが看護師さんと呼ばれるようになった背景には男性の登場ということがあっても、こと仲居の世界では女性オンリーということになってしまう。
若い女性の応募も少なくないが、その中に女将という仕事に憧れてという人物もいたので面白いが、女性を雇用していると「寿退職」や「出産退職」ということもあるので避けられない宿命である。
数日前にも短期大学を卒業してから入社して8年目という仲居が退職した。事情は結婚ということだが、相手が実家の仕事の後継をしているので仲居を続けたくともどうにもならないと言っていた。
彼女は女将の桃子のお気に入りの一人でお客様の評価も高かったので残念だが、来月に行われる京都のホテルでの結婚披露宴に夫と二人で出席する。
結婚式そのものは彼女の夢だった上賀茂神社で行うそうだが、控室から参道を歩くので好天に恵まれることを祈っている。
上賀茂神社での挙式は純日本的な神前結婚式だが、巫女さんや雅楽の奏者が宮司さんや神官さんの他に入るので厳粛で特別な世界だそうだ。
式場のある棟では専用の写真館しか撮影出来ない規定もあり、スマホや携帯電話の撮影は不可能だが、横着に撮影行動をする不届き者もいるそうだ。
花嫁衣装は京都市内にある有名なブライダルレンタル衣装会社でお願いするそうだが、そこから神社までの移動は日本的な花嫁専用のハイヤーが担当してくれるそうで、後席の天井の一部がオープンするので日本髪を結っていても抵抗なく乗車出来るというものである。
これまでの休日で何度か打ち合わせに京都へ行った彼女だが、そのハイヤーが神社の控室玄関近くの駐車場へ到着すると、運転手さんが赤い絨毯を敷いてくれてその上を歩くことになっているそうだ。
どんな産業の世界でも伝統や文化があっても個性化と多様化は必然な問題。流行は業者が作るという言葉があるが、旅館のオリジナルなサービス発想の構築も重要で、今回の寿退職が桃子に新しい意識改革のきっかけを与えてくれたような気がしており、社長である夫と二人で考えていることもある。
一方で、出産で実家のある三重県へ帰っていた女性スタッフが、また仲居として勤務したいと戻って来てくれて喜んでいる。この温泉地にはそんなスタッフのために旅館組合と観光組合が共同で運営している保育園があり、夫婦の生活圏が近くにあれば再就職という道も考えられていた。
法的な条件をすべてクリアした本格的な保育所で、旅館やホテルのスタッフ以外でも受け入れを可能としているので地元からも歓迎されている。
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