在来線の特急列車停車駅からタクシーで10分のところにある温泉地、そこに13軒のホテルと旅館があるが、純和風の高級旅館の女将が菜穂子だった。
彼女が半年ほど前から楽しみにしているのが夫と車で出掛ける「道の駅」巡りで、旅館から1時館内に6カ所も存在していた。
最近の「道の駅」は地元産の新鮮な野菜だけではなく、様々なB級グルメまで取り組んで販売されており、そんな中にびっくりするユニークな物もあり、お客様に提供するメニューの参考になることもあるが、菜穂子が重宝しているのはお客様にお持ち帰りいただくお土産品となるもので、誰もが「珍しい!」と喜ばれる物を発見することになれば最高と考えている。
数カ所の「道の駅」の駅長さんと話したことがあるが、最近は地元の産物だけに拘らず、他府県に存在する「道の駅」で人気になっている商品を取り寄せて販売していることもあり、そんな情報交換も重要な仕事となっていると教えてくれた。
そんな商品の一つが和歌山県の勝浦で採取される海水から山間部で製造している「塩」で、和歌山県産で知られる南高梅から抽出された色素成分を混合させて作ったピンク色の塩で、他に柚子味もある。
ご宿泊くださったお客様がチェックアウトされる際「女将からのお土産です」とプレゼンとすると驚かれるが、持ち帰られて実際に使用されたら想像以上の評判で、わざわざ御礼のお手紙をいただいたこともあるし、大半のお客様から御礼の電話を頂戴している。
駅長さんの話によると、最近は旅行会社やバス会社が「道の駅ツアー」を企画していることも増え、5カ所ぐらいの道の駅を巡り、それぞれで歓迎の試食品などを準備しているところから話題を呼び、募集をしたらすぐに定員に達してしまうという人気があることを知った。
菜穂子の旅館でも年に何度か旅行会社からの要望で、昼食と入浴を提供することもあり、大型バス1台で50人ぐらいのお客様を迎えるのだが、厳しい予算で対応を求められるので大変である。
しかし、そんなご利用のお客様から改めてご夫婦やご家族でご予約いただいたこともあるので手抜きは出来ず、ちょっと奉仕みたいでも対応する価値はあると確信している。
今年のGWの時だった。高速道路の事故で大渋滞に巻き込まれ、バスの到着が2時間も遅れたので大変なことになったことがある。添乗員の方から何度も電話が掛かって来て現在地を知らされたが、それで到着が早まることもなく、温かい料理を準備するには役立っただけだった。
午後2時を過ぎるとチェックインのお客様と被ってしまう。食事をされる会場に問題はないが、落ち着いた雰囲気のロビーが賑やかになることは否めず、これは致し方ないと対応している。
その時の添乗員が菜穂子に次のように言ったことが印象に残っている。
「人間とはね、空腹になると怒りが増す心理傾向があるので、不可抗力の出来事で時間が遅れても、到着してすぐに食事が用意されていると治まるのです」
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