夢佳が女将をしている温泉地のホテルや旅館の宿泊施設は19軒だが、その全てが加盟している温泉組合に予想もしていなかった企画が提案されて来た。
それはこの温泉地から車で2時間ほど離れた所にある人気の高い温泉地組合からの呼び掛けで、行政の観光課がプロデュースに参加して周辺の観光スポットを大々的に宣伝する一環として出て来た案で、二つの温泉地で連泊すれば割引特典が受けられるという企画だった。
観光課の課長が議長になって役所の会議室で二つの温泉地組合の役員達が会議を行ったが、互いにメリットがあるところからすぐにまとまって協力をし合うことになった。
観光地が提携をして地域の活性化を目指す活動が全国的に行われているが、連泊というキーワードが与えるインパクトは強いと言われ、アドバイザーとして出席していた大手旅行会社の役員からもメリットが大きいという意見が出ていた。
各旅館の社長や女将が集まってどの程度の割引きにするかを話し合ったが、様々な意見が出て即決とはならず、後日に改めて会議を開くということで結ばれたが、客室稼働率の高い人気旅館の提案する割引率は低く、稼働率の低い旅館は少しでもお客様を迎えたいと割引率を高くしても良いというのも理解出来るが、各旅館がバラバラではお客様への説得力につながらず、二カ所の温泉地が統一した割引率を打ち出す必要があった。
会議の中に「慎重にしなければ」という意見も出ていた。テストケースとして期間限定でスタートするべきというもので、これは参加者の大半が賛同していた。
故郷創生という言葉も流れて「行政の補助金は出ないの?」と質問され、観光課長が「宣伝に関しては市も町も協力出来ます」と答えていたが、具体的に金額が提示されることはなく、組合長が「積極的に進まなければ置いて行かれる」と危機感を訴える言葉を発して会場の空気が一変、組合費を拠出してでも進むことだけはしようとなった。
それから数日後に会議が行われたが、そこには今回のキャンペーンに協力することになっている温泉地や観光地の役員達も出席しており、具体的な内容まで進んで9月から11月末までの3か月間で始めることになった。
互いの組合のHPにも表記することになったが、費用を半額ずつ出し合って新しい観光連泊というHPを製作することになり、それぞれのHPや行政の観光課のHPにもリンクを張ることが決定した。
この企画を提案した観光課長もホッとしたような表情を見せていた。やるからにはぜひ成功させたいものだが、HPの開設と同時に予約を受け付けることにし、どの宿泊施設を選択されるかはお客様の意思ということになったが、割引率は10%に決まった。
各宿泊施設のHPへの表記も自由ということになり、表記と同時に予約もOKとなったので少しでも早くと考え、夢佳の旅館もHP担当の事務所スタッフが社長から命じられて早速取り組んでいた。
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「小説 女将、連泊割引会議」へのコメントを投稿してください。