列車は定刻に発車した。カントリー・リンクという鉄道会社が走らせているエクス・プローラーという名称の列車だが、広大な国土で飛行機や高速道路が整備されているが、所要時間の関係から鉄道はあまり歓迎されず、都市間の列車の進化は他国に比較して遅れているようだ。
しかし、観光目的で走っている豪華列車の人気は高く、3泊や4泊というコースでも中々チケットの入手が難しく、今回は断念せざるを得なかった事情もあったので、せめて雰囲気だけでもということでキャンベラとシドニー間で利用することにしていた。
車窓から見える景色はそれこそオーストラリアで広大な草原に放牧されている牛馬が見えるし、コアラが好むというユーカリの木の林も見られた。
乗客の中に目の不自由な方がおられ、盲導犬を伴っていたが、物静かに通路で寝そべっている姿に随分と教育を受けているような感じを受けながら、しっかりと障害のある方をフォローしてねと無言で語り掛けておいた。
シドニーまでの所要時間は4時間と少し。3時間ほど走ると郊外を経て徐々に都市部になって来たように感じ、キャンベルタウンという駅に停車した時、夫がシドニーからキャンベラへ向かう日本人が間違って降りてしまうことが起きる駅として知られていると教えてくれた。
ビルの姿が多く見られようになるとシドニーの中心部に入っていた。シドニーは海岸に近い街で。オーストラリアで最も大きな都市だが、世界中から観光客が訪れることで有名なところだった。
夫は遠い昔に観た映画「渚にて」の物語の中心になっていたメルボルンや少し離れた自然環境が大切に守られているタスマニアへも行きたかったそうだが、メルボルンからシドニーまでを鉄道で移動するとなるとどうしても飛行機になってしまうところから今回は残念だがメルボルンは目的地から省かれていた。
シドニー駅に到着してホームで荷物を受け取り、構内をウロウロしていると別の鉄道の駅に出てしまい、それを利用してホテルのあるオペラハウスの方へ行くことも出来るが、切符を購入するややこしい煩わしさもあるのでタクシーを利用することにして、乗り場を探して移動していた。
シドニー中央駅は日本国内の大都市駅のようなイメージだが、改札口がないのが異なるところで、これはヨーロッパの一部でも採り入れられているシステムで、車内検札で乗客が切符を購入していなかったりしたらびっくりするほど高額な罰金が科せられるようになっていた。
乗車したタクシーはフォードの中型車だった。夕方なので市内の渋滞もあって交差点で進まないこともあったが、前にも触れたように料金メーターは10円程度毎に上がって行くので時間料金も設定されているところから、一つの信号で停車すると40円ぐらい上がることもあって我々日本人には何か奇異感を抱く問題でもあった。
ホテルは旧の大蔵省だった建物をリニューアルしているインターコンチネンタルホテルだった。フロントでのチェックインを済ませて廊下を行くとコンシェルジュのデスクがあって、愛想のよいスタッフが「日本の方ですね?」と声を掛けてくれた。
外国に行って勘違いをしてしまうことにエレベーターのボタン表示である。ロビーのあるフロアは「Ⅼ」フロアで、2階が「1」となっているケースもあるので要注意である。
滞在中に何度か利用したレストランが2階にあって「1」のボタンを押さなければならないのでいつも押す前に思い出して間違わないようにしていた。
部屋の窓からオペラハウスがすぐ近くに見えていた。その光景はオーストラリアを象徴する一つだが、出発前に夫から相談を受けていた2つのテーマ、一つはオペラグラスで何かイベントを観るというものだったが、有名なバレエが開催されていたが余りにも入場料が高額だったので取り止め、もう一つのシドニー港から出向するクルーズ船キャプテン・クックのシドニー湾の夜景を2時間ほど楽しむディナーも、偏食の多い夫の意見からこれも却下となった。
到着した夜は夕食を済ませてからオペラハウスに行き、周囲を回ってもう一つのシドニーの象徴であるハーバーブリッジの美しい姿を撮影した。
ホテルのすぐ近くに面白い看板を見つけた。そこは中国人が経営する小さな規模のコンビニみたいな店だったが、「スーパーマーケット」という意味なのか「超市場」とあったので興味深く、立ち寄ってペットボトルの水を2本購入してホテルの裏側から戻ったら、そこに宝石店があって中にいた女性スタッフが我々に向かって「ニーハオ」と声を掛けたので中国人と思われたみたいなので「日本人です」と否定したら笑っていた。
部屋に戻って明日の観光コースをネットで調べようとしたら、接続した「Wi-Fi」がすぐに切れてしまってつながらないそうだ。そこで成田空港で受け取る際に言われた「連続4時間」という意味が「連続」ではなく「接続」だったことを理解した。
夫の持参していたパソコンはかなり重量があったが、慣れているものがベターだと頑固に言い切り、重いバッグは嘉代子が持たされる役になっていた。
机に座ってネットをつなげようとしていた夫が「これは駄目だ!」と呟いている。「Wi-Fi」が不可能になってしまったことからホテルの有線ラインや「Wi-Fi」での接続を試みたが、夫のパソコンはセキュリティーの高いシステムを導入しており、接続と同時に「誰かに覗かれている危険性があります」と表示されるので電源を落としていた。 続く
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