今日はお客様のチェックアウトが済んで、チェックインの準備を早めに済ませ、厨房スタッフが作ってくれた昼食を食べながら行われる月一回恒例の会議だった。
テーマは自由で、どんなことを発言してもよいことになっている。お客様がふとこぼされた独り言的なクレームに今後の大きなヒントが発見出来ることもあり、社長も女将の敦子も期待している会議だが、仲居達から聞けるお客様の料理に対する評価を料理長が何より重視していた。
若い仲居から「アメニティをもっと高級品にして充実させたら如何でしょうか?」と提案された。それは女性同士のお客様が増えて来ている中、高級旅館として知られているのに現状のアメニティではという厳しい意見だった。
最近のホテルや旅館はアメニティに神経を遣っていることも事実である。利用されたお客様があちこちの体験をブログで紹介したりすることが増えたからで、扱っているメーカーを書かれるだけでイメージダウンにつながるからだ。
この提案に対して経理を担当している副支配人が「コスパの問題がクリア出来れば問題ないのだけど」と嘆くような表情で答えたが、事務所の若い女性スタッフが「使用されなかった物をお持ち帰りいただく配慮も必要では?」と発言し、この問題でそれぞれの熱いやり取りが始まった。
「次にテレビを変更する時は、DVD機能の付いた物が喜ばれるでしょうし、現在多くのチャンネルで選択可能でご覧いただいていますが、名作として知られる映画のDVDの貸し出しサービスも喜ばれると思うのです」
「ちょっと贅沢かもしれませんが、現在設置されている加湿機能付き空気清浄機の他にナイトスチーマーを備えることも歓迎されると思います」
「モーニングコールのお客様もありますが、最近に人気の目覚まし時計を各部屋に設置したら如何でしょうか?」
「Wi-Fiが全館で可能になりましたが、確かにパソコンやタブレットを持参されているお客様がおられます。しかし。電源の差し込み場所という物理的問題で継ぎ足しコードがあればと思います」
「お食事のことですが、最後にお茶漬けをされるお客様が結構おられるのです。市販のお茶漬け海苔でも備えておけば喜ばれると思います」
こんな内容は経営者側の関係者ばかりの会議では出て来ない意見である。今日提案されたことで出来ることに優先順位を考えて支配人と社長が検討するということで閉会となった。
様々な細やかな配慮で準備する備品だが、敦子の旅館では被害が少ないが女将会の会合で被害が多いと嘆いていた女将もおり、支配人は宿泊料金と客層が原因すると指摘していた。
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