半月前頃に電話で取材のアポがあり、今日の午後一でそのライターと称する人物が来館する予定で、夫である社長が対応するので女将の里美は早目の昼食を準備していた。
迎える場所は応接室や会議室でなくラウンジが選択されており、里美が少し少しおかしな疑問を抱いていたが、自分がお茶や茶菓子の準備をしなくてもよいので助かったとも思っていた。
その人物がほほ1時5分前にやって来た。玄関にいた副支配人も来館予定を聞いており、「いらっしゃいませ、お待ち申し上げておりました」と迎えてラウンジへ案内して来た。
到着したことを知った社長が事務所からラウンジへ行き、名刺を交換してから取材が始まったが、どんな取材なのか興味を抱いていた里美は少し離れた席でコーヒーを飲みながら聞き耳を立てていた。
取材となればこれまでにも何度かあったが、楽しそうな会話になって2時間近くを過ごされたこともあるのに、今日のライターに対する社長の態度は嫌につっけんどんな感じで、15分で帰って行かれた。
社長が「思っていた通りだった」と立腹している。話を聞いてみるとライターというのは所謂フリーの立場で、自分が取材して書き上げた原稿を週刊誌や雑誌社に売り込むもので、取材先であるホテルや旅館から高額な取材料を請求し、その中から雑誌担当者に何割かを渡して記事として貰う仕掛けとなっているものだった。
この温泉地の中で最も大きなホテルの社長がこの商法の被害者となった出来事があり、その事実を知っていた社長が警戒していたので事なき結果となったが、週刊誌の中で記事のように取り扱いされているように見せ、枠外に「広告」という文字が入るのだから現行の中に素晴らしいサービスのことが触れられていても信憑性はなく、逆にマイナスイメージを与えることもあるのから高額な費用を支払ってそんなことになれば最悪で、こんな商法が流行している事実を次の旅館組合の会議で紹介するとも言っていた。
これに似通ったややこしいビジネス勧誘が届いていたこともあった。それはネットの中で旅館やホテルの検索で上位にヒットさせるというもので、申込金を必要とせず、実際に3ページ目以内にヒットするようになった時の成功報酬となっていた。
これに期待を寄せて依頼をした旅館がこの温泉地にもあったが、大変な目に遭ったと旅館組合で顛末について話したので話題になった。
里美の旅館の事務所スタッフにIT技術に長けたスタッフがおり、この勧誘メールが届いた時に社長と里美にそのシステムについて解説してくれ、女将夫婦がネット社会になると何でもありのビジネスが登場するものだと驚いていた。
このビジネス展開はアルバイトを多数使って与えたパソコンで依頼を受けた企業名を何十回も検索する仕掛けで、半月もすれば検索の上位にヒットして来ることになるが、そこで喜んで支払いを行ってしばらくするとその企業名は出て来なくなってしまうのだからびっくりするが、これは検索エンジンを提供している側が不正アクセスと判断して無効扱いにしてしまうからだった。
因みに「小説 女将シリーズ」で検索してみると次のようになっていた。
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