今年になってから外国人のお客さんが増えた。送客してくれる大手旅行会社によると、ホテルより純和風の旅館を希望されることが多いそうで、英会話が可能なスタッフが一人だけいるが、彼女の休日は外国人のお客さんがいない日に限定するようになっている。
そんな旅館の女将の亜紀には悩んでいることがあった。それは刺青のあるお客様の大浴場入浴のご遠慮なのだが、外国人の中には文化としてタトゥーを入れているケースもあり、これをどうするべきかという問題だった。
既に2回ほど問題が浮上した出来事があった。幸いに英会話が可能なスタッフが事情を説明して貸切露天風呂で対応したが、やはりご満足には至らなかったようで、折角ご利用くださったのにという思いも抱いていた。
しかし、タトゥーのお客様を大浴場可能とすれば知らないお客様で大変な問題になる。そこで脱衣場に分かり易く説明した掲示ポスターを張ることにして、当旅館の女将のお願い謹白としておいた。
大義名分は外国の文化である。しかし刺青については、はっきりと「ご遠慮ください」と案内表記をしている。
過去に部屋担当の仲居が「刺青が入っているので大浴場には行けない。貸切の露天風呂を」」と頼まれたことがあったが、この問題もデリケートなので頭の痛いことである。
玄関には警察から観光組合に配布された看板が掲示されているが、ゴルフ場では厳しい対応がされていても、ホテルや旅館は中々難しい。パーティーなどはお断りするのが常識となっているが、宿泊利用となれば気付かないケースも考えられる。
過去に超高級車でご夫婦らしいお客様が来られたことがあった。玄関でお迎えしたスタッフも駐車場へ案内したスタッフも「普通じゃない」と言うので館内は緊張に包まれたが、部屋へ案内してお茶を準備し担当の仲居が「言葉も優しくてそんな感じに見えません」というので夕食時にご挨拶に参上したら、車がお仕事で必要という事情が判明してホッとした出来事もあった。
最近はそう言う方々よりも困るのが若い方々のモンスタークレーマーという人達。何か問題があればどうにもならないこともあり、亜紀の旅館では一定の対応を超えると顧問弁護士が対応するシステムになっており、24時間という特別契約をお願いしている。
顧問弁護士は所謂「辞め検」という元検事だった人物で、この温泉地の組合の顧問弁護士でもあり、加盟する全店の顧問となっているので心強い存在である。
他府県のある温泉旅館で「虫」問題が発生。若い男女がモンスタークレーマー行動を起こしたが、その「虫」は持ち込まれた意図的な事実と判明した。その分析をしたのは担当の警察の鑑識職員。「この虫はこの地域には生息していません」ということが分かったからである。
微妙なケースとして食事の際の髪の毛の問題がある。どのように配慮していても水掛け論になることがあるが、亜紀の性格は一般的な旅館の女将とは異なっている。髪の毛問題が発生すればDNA検査で徹底して対応するというものである。それで旅館のスタッフのものであれば平身低頭謝罪するが、そうでなければ徹底的に調査をするという姿勢だった。
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