若女将から女将になって6年目を迎えた。先代女将が現役の時はそうも思わなかったが、女将という立場になってその責務の重さに壊れそうな心情になることもある。
最も疲れるのはスタッフのミスによるお客様のクレーム対応だが、最近は意図的なクレーマーみたいな人もおられるので困っているのである。
謝罪をする行動は想像以上のエネルギーが必要で、そのストレスの大きさ測り知れないほど強いものだ。
そんなところから最近は疲弊してしまってあまり眠れないことから、何時もお世話になっている診療所に診察を受け、軽い精神安定剤と睡眠導入剤を処方して貰った。
女将の怜奈が疲れている様子をスタッフ達も心配していたが、お客様からクレームのないようにミスをしないようにと自主的に話し合って意識改革につながったことを支配人から聞いてホッとしたのは1週間ほど前だった。
就寝する前に処方された薬を服用するとやはり効果は歴然で、ベッドに入るといつの間にか眠ってしまうので重宝するようになったが、夫から「依存症になったら怖いから気を付けろ」とアドバイスをされていた。
夫も10年ほど前から同じ2種類の薬を服用している。週に2回ぐらいの服用だが、2年前にびっくりする出来事があり、それから慎重になった。
出かけていた夫が深夜に戻り、次の朝早くにゴルフに出掛けなければと横着をして薬をビールで飲んだことが事件の発端で、次の朝に目覚まし時計で起きた夫が廊下を歩いていると右の壁にぶつかるようになり、おかしいとベッドの上に戻って座ったらそのまま横に倒れてしまったので大変だった。
そんな兆候は10分ほどで治まったが、ゴルフから戻って気になった夫が診療所の先生に事情を説明したら、「何を考えておる」とビールで飲んだことを叱られたと聞いた。
それから薬を服用に関して慎重になったのだが、日常生活の中で薬をうまく活用することも大切で、薬の常用はやがて効力が低下してしまうという結果になるので気を付けなければいけない。
しかし、怜奈は2種類の薬を就寝前に服用しなければ眠れないという依存症になっており、服用しなかったら眠れないのではという心情に襲われてベッドの中で苦しむことになってしまっていたのである。
夫が血圧の降圧剤と睡眠導入剤を間違って服用してしまったことがあった。服用後に大浴場に行ったら身体がカッカして血管が拡がるような感じでおかしいと訴え、確認してみたら残っている錠剤の数が合わず、血圧降下剤と睡眠導入剤を間違って服用していた事実が判明した。
お蔭で夫はベッドの中で一睡も出来なかったそうだが、その時は何かが起きたら恐ろしいと睡眠導入剤を飲まずに朝を迎え、「参った」と嘆いた姿が忘れられないので怜奈も気を付けている。
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