佳菜美が女将をしている旅館に若い仲居がいる。彼女は料理長の姪で縁故入社を行っていないこれまでに、佳菜美自身が気に入って入社を勧めたという歴史がある。
彼女が大学に入学して間もなくの頃、料理長が入学祝いとして旅館へ招待したことがあり、その時に4人の学生仲間とやって来たのだが、その品を感じる仕種に気に入ってしまった佳菜美が料理長を通じてずっと懇願していたものだった。
この旅館に勤務してから3年が過ぎたが、そんな彼女も今秋に結婚することになっている。結婚してからも勤務を続けてくれることになっているが、子供が出来れば退職することになると覚悟しているが、彼女の幸せを願いながらずっと勤務を続けて欲しいという思いもあった。
今日、チェックアウトのお客様を全てお見送りして各部屋の片付けや清掃が終り、昼食を済ませて後は今日のチェックインのお客様をお迎えすればと思っている時だった。彼女が「女将さん、大変です。事件です」とロビーにいた佳菜美みの所へ血相を変えて知らせに来た。
<何事か!>とびっくりした佳菜美だが、事件とは彼女の結婚相手の男性が勤務している旅館で発生したもので、彼からの電話があったそうで知らせにきたのであった。
人の出会いとは不思議なこと。彼女と彼が知り合ったのは互いの旅館が合同でスタッフ研修会を行ったことで、迎える講師の謝礼を両館で互いが負担すれば半分で済むという合理的な単純発想で開催したものである。
「女将さん、彼の旅館で大変な問題になっているそうで、弁護士の先生もやって来られて相談されているみたいで、社長と女将さんがもの凄く憤慨されているそうです」
騒動とは佳菜美が初めて知る事件だった。この話題は温泉地にかなり広がってしまっているみたいでフロントスタッフや事務所スタッフまでもが知っていた。
フロントスタッフが「女将さん、グラドルってご存じですか?」と行ったが、何のことか分からなかった佳菜美が首を傾げるような仕種を見せると、彼は、この騒動がグラドルに関する問題であると教えてくれた。
グラドルとは「グラビアアイドル」のことで、男性向けの週刊誌や漫画などの雑誌の掲載される写真のモデルのことだそうで、最近に話題になって人気の高いグラドルの写真集が発売されたらしいが、その中の大浴場と露天風呂での写真の撮影場所が彼の勤務している旅館と判明し、こんな許可を出した覚えもないので憤懣していたのである。
最近はネット社会の中で何でも話題になって広がることになり、誰もが「探偵」みたいになって撮影場所を調査するやりとりに進展することも多く、すでにその旅館名が掲載されている状況を迎えていた。
宣伝になることは歓迎だが、こんな「かたち」で広まることはマイナスイメージも多く、佳菜美は自分の旅館なら絶対に許さないと同感を抱いたが、撮影したカメラマンの氏名も掲載されており、それが女性だったことだけが救いだった。
数日後に知った情報では、雑誌の回収問題も出たそうだが、両者の弁護士の話し合いで謝罪して和解に至ったということだった。
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