旅館という仕事をしている中で困ってしまうのはお客様のキャンセル問題で、中には何の連絡もなく到着をされないというケースもあり、年間に何度か起きている。
それらのお客様の大半は電話での直接予約で、旅行会社を通じた予約やネット予約での発生は皆無だった。
予約電話を受けた際にお電話番号を承るようにしているが、ご自宅の電話、携帯電話の両方を伺っているのに当日に確認してみたらどちらも関係のない方の番号で、意図的に偽予約をしたという悪質な行動で、地元警察に被害届を出したこともあった。
これらは多くの同業者が体験していることであり、旅館組合や観光課の会合で話題になることもあるが、事務局で情報を集めることも重要ということになり、事務局を経て警察へ届けることになっている。
交通機関の問題で来られないというケースも少なくない。過去に深夜の鉄道の架線工事に使われていた作業車をそのままにしていて大変なことになり、夕方まで不通になって十数組のお客様が来られなくなった出来事があった。
加害者は鉄道会社となるが、賠償責任まで進むことも難しく、多くの旅館やホテルが嘆いた事件でもあった。
こんな場合にお客様からキャンセル料を頂戴することは勿論無理で、それこそ泣き寝入りという腹立たしいことになるが、夏や秋には台風による影響で来られないケースが多いので気象庁の発表する予報を確認するのも大切な仕事である。
数日のキャンセルとなれば仕入れの食材の問題が浮上する。無駄が発生して処分しなければならないなんて最悪だし、お客様には新鮮な物を提供したいので料理長も神経を遣っている。
支配人が昨年にびっくりした体験をしていた。午後6時になってもご予約のお客様が到着されないので承っていた電話番号に掛けたら、「ごめんなさい、昨日主人が倒れて救急車で入院しているのです」と奥様から伺ったからで、「お大事になさってください」と申し上げてキャンセル料の請求はしなかった。
過去にそんな体験をされたお客様が「元気になった」と来館くださったことがある。予約を受けてから「何か退院のお祝いをしなければ」とスタッフ達と話し合ったこともあった。
ご予約されていた人数が当日に減ることも旅館としては困ることで、前日にご連絡があればと思うのだが、体調の不具合なら仕方がないし、こんな場合のキャンセル料の請求は難しいのでしないことにしている。
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