ホテルと旅館が十数軒ある温泉地だが、温泉街にある居酒屋店や土産物店が次々に閉業する現実を迎え、温泉萎組合でも深刻な問題となっている。
各宿泊施設が館内に売店を設けたり夜食のための居酒屋やラーメン店を営業するようになり、団体客の少なくなった最近は温泉街をブラブラする情緒を楽しむこともなく、宿泊施設はお客様を出来るだけ館内から出ないような体制を進めている影響が表面化したようだった。
全国各地の温泉地で疲弊しているところも少なくなく、活性化を目的に何か行動を起こすべきという結論に達し、温泉地組合と女将会合同で毎日曜日の午後からイベントを行うことになった。
何度も会議を行って様々な意見を集約することになったが、この地域で最近に注目を集めている特別に甘いイチゴ農園の協力を得て、糖度の高いイチゴを列車内のお客様にプレゼントするというものだった。
最寄り駅のJRの駅長の協力を得て、特急列車はすれ違うために停車している短時間の内に女将達が車内へ入って配るというイベントだが、温泉名と女将会という文字の入ったタスキ掛けた和服姿が話題を呼ぶことは予想された。
協力してくれるイチゴ農園について触れておかなければならないが、元はある旅館と専用契約を結んでいたが、その旅館の社長を了解を得て今回のイベントが開催することが出来た。
その社長の立場からすれば、自分の旅館の食事のデザートで使用したり、ロビーで毎日行っている朝市でお土産として販売する企画を進め好評を得ていたが、温泉街全体の将来の疲弊する光景を考えて協力を提案したものだった。
車内へ女将達が持ち込むイチゴはそのまま食べられるように洗っておき、手提げ籠の中に特別製の器に入れて差し出すようにしているが、それぞれ1個ずつに爪楊枝を刺して配るようにしていた。
「こんな美味しいイチゴが食べられる温泉です。大歓迎申し上げますのでお立ち寄りください」というメッセージカードも添えているが、上極の中には他の温泉地で過ごされた帰りの人もおり、「この温泉地でイチゴをいっぱい食べたかったね」というお声を耳にすることもあり、このイベントの有意義で確かな効果を感じている関係者だった。
始めてから1か月ほど経った頃、新聞社の地方紙で採り上げられ、それをきっかけに写真週刊誌で紹介されて大きな話題になり、温泉組合以上にイチゴ農園が注目を浴びて大変なことになっている。
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