昨日の夕方だった。女将の希代に「女将さん。今晩のテレビの番組を必ずご覧ください」と言ったスタッフがいた。彼はこの旅館のスタッフでただ一人いる外国人スタッフで、タイ人だった。
日本の大学の留学をして卒業後に国に戻ってから再来日。東京のホテルに2年間勤務した後不思議な縁でこの旅館にやって来た。
彼はイスラム教の信者で、東京で開催されたある宗教討論会でこの温泉地にあるお寺の住職と激論を交わし、その後に互いが理解し合って交流が始まり、住職の勧めで希代の旅館に勤めることになった。
敬虔な信者である彼はイスラムの教えを実践しており、食事も全てハラル(ハラール)をクリアしているものに限定しており、調理器具の全てや食材を入れる冷蔵庫も彼専用の物があり、彼は自分で自分の料理を作っていたので、スタッフ達が「賄い」と呼ぶ料理は食べておらず、スタッフ全員が彼の宗教について学んでいた。
そのテレビ番組だが、日本にやって来る外国人達の特別な人気のある観光地や料理店の紹介で、その中にハラル専門で提供する中華料理の店があって東南アジアの観光客が行列をしていたのもあったし、ある料理店の女将が流暢に英語を話し、注文時に依頼されるアレルギー食材へも細やかに対応している光景に興味を覚え、希代も勉強しなければいけないと思うことになった。
社長は夫だが、彼はイスラム教のことについてしっかりと勉強をしており、毎日祈るしきたりを理解して専用の祈祷室も設けているのだが、タイからやって来るイスラム教のお客様達にも知られることになり、ネットで紹介されていることも知った。
タイ人のいる旅館でタイの言葉通じる。それにハラル料理の対応や専用祈祷室まであるというのだからタイの観光客に歓迎されるのは当たり前だが、社長が真剣に勉強に取り組んだころから彼もバンコクの観光局を通じて紹介をして貰ったことから現在は月に20人ぐらいのタイ人観光客が訪れてくれ、地元の旅館組合で「インターナショナルだ」と話題になっている。
このハラル料理については予想以上の広がりがあった。マレーシア、シンガポールなどの旅行情報のネット紹介にも出ているそうで、最近はその国の人達が予約されることも増えている。
都心から在来線の特急列車を利用する不便のアクセスだが、宗教の問題や言葉が通じる安心感は大きいようで、来館くださる外国人のお客様が増えているこの傾向を夫と喜んでいる希代だった。
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