ある知られる温泉地のホテルの大浴場で、男性のお客様が転ばれて頭部を強打され、手配された救急車のエンジンが掛からず、別の署から派遣されることになったので25分も到着が遅れた不幸な出来事が報じられていた。
結果として亡くなられたそうだが、救急車の遅れが原因になったかどうかは不明ということだった。
利代子が女将をしている旅館の大浴場も滑り易くなっているので、目立つように張り紙をあちこちに掲示しているが、温泉独特の成分が床を滑り易くしてしまうみたいで、利代子の旅館の大浴場には滑らないような床材を用いているが、それでも1年に2、3人の転倒者があり、中には骨折されて大変だった苦い体験もあった。
大浴場には幾つかの湯船の存在があるが、お客様のご利用に関して清潔感が重要なところからスタッフが徹底して清掃に務めており、これが逆に転倒し易い環境につながる危険性もあり、湯船の周囲にある縁石や檜風呂の檜の部分が要注意であることも掲示するようにしている。
人の心理とは「自分は大丈夫」という勝手な思い込みが普通で、最悪の想定を考えるような人は稀で、ましてやリラックスを求めて遠方の温泉に来られている訳で、自分が怪我や骨折に見舞われるなんて想像もしないことは極めて当たり前のことである。
そんなところから脱衣場に掲示した「注意書き」も目に入らないパーセンテージが高く、床に直接「滑り易いです。要注意!」と書いているのが功を奏したようで、その実施から転倒される人が激減したのも事実であった。
高齢者の方は転倒されると骨折される危険性が高い。骨密度の問題から骨折し易いということもあるからだが、その前に「転び易い」という足腰の筋肉の低下もあるようだ。
また、眼鏡で日常を過ごされている方もレンズが曇るところから外されていることが多く、足下が見難いことも原因すると言われており、利代子の旅館の大浴場では湯気が出来るだけ少なくなるように換気設備を増設して対応している。
内湯から露天風呂につながる部分に危険があると指摘されたことがあった。温泉地の近くに噴火している山があり、降灰があるところから滑らないようにしてある床の溝にそれらが残り、凹凸の部分の効果を減少させてしまうからで、清掃サイクルを増やして対応するようにしている。
温泉は火山からの恵みだと言われているが、それらは源泉の場所へ行ってみると実感出来る。信じられない量の高温の温泉が湧出している光景は圧巻で、そのままでは熱過ぎるので冷ませるのがこの温泉地の特徴でもあった。
この温泉がずっと湧き出てくれること。そして火山が大きな噴火をしないように願っている利代子だが、地元の行政や観光組合では万が一のことに備えて避難対策についても取り組んでおり、すでに地域にはハザードマップも配布されている。
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