女将の花凜の旅館には2種類の回覧板が回って来る。一つは地域の役所から全所帯届けられる情報で、もう一つは旅館組合から伝えられる緊急性がある回覧板で、目を通して捺印したら定められている順に隣接のホテルへ届けることになっている。
今日の情報は隣町の温泉旅館で起きた信じられない出来事で、こんなケースが全国各地で発生しているようで、女将仲間の旅館に届けて戻ってからスタッフに注意を促しておいた。
事件の顛末は2人でチェックインした素泊まり客なのに。いつの間にか10人近くが入室されており、飲食物の持ち込みをご遠慮願っているにも関わらず、大量の飲食物が持ち込まれ、早朝にゴミを片付けて持ち帰るので発覚しなかったというものだった。
廊下を歩いていたら擦れ違うお客様も多いが、客室の多い施設では全ての宿泊者の顔を憶えている筈はなく、「あんな方、チェックインされていたかしら?」と疑問を抱くこともあろうが、裏口から出入りしているみたいでこれまでに考えられなかった手口である。
大半が東南アジアの人達だと書かれていたが、訪日される外国人が増える中、こんな歓迎したくない人達もやって来るのだから気を付けなければならない。
素泊まりでご利用されるお客様のバッグを空港の保安検査みたいにチェックすることも不可能で、互いの信頼の原則で成り立っているが、世の中には予想もしなかった行動をする人達もいるみたいで、それこそ「劇場型」違反行為と言えるだろう。
厄介なのは大浴場を利用するのは2人だけで、秘かに入り込んだその他の人達が客室のバスルームを使われること。細かいことを考えるなら水道代、据え置きのボディソープ、シャンプー、コンディショナーの消費のこともある。
まだ早朝に出て行くから大きな問題に発展しないが、もしも1泊2食付きや1泊朝食付きで利用され。予定外の人がバイキングに来ていたらと想像するとゾッとする。
これらの事件は地方の温泉旅館だけではなく、都心のシティホテルやビジネスホテルでも多発しているらしい。防犯カメラを24時間体制でチェックすることも重要だが、仲間が死角になるように行動するケースもあるというのだからまさに戦いではないか。
ネットのHPから予約されて来るケースが増えたが、こんな事件の防止対策で素泊まりと1泊朝食プランを取り止めた旅館も出て来た。ご利用くださるお客様を疑いたくない思いを重視する発想からだが、今や社会は「何でもあり」となってしまっているのだろうか?
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