十数軒ある温泉地だが、社長会、女将会、若女将会、料理長会の組織がしっかりと構築されているので各施設が総力を挙げて集客につながるような行動で団結している。
そんな温泉地の旅館で女将をしている尚美は女将会の副会長を務めているが、明日の午前11時から観光組合の会議室で緊急会議が開催される連絡が入った。
議題は防犯に関係することで、地元の警察署からの出席もあり、各地の温泉地で発生していた事件がこの温泉地でも被害があった事実が届けられ、今後の対策に関して話し合うというものだった。
半年ほど前に大浴場での盗撮が多発しているところからその対策について会合があったが、今度はどんなことかとスタッフ達と話題になっていたら、副支配人が交友関係のあるこの温泉地で最大のホテルの浴場に設置してある脱衣場の籐の籠から部屋のキーを持ち出し、それで部屋に入って室内を物色して現金や貴金属を盗むという手口で、室内での仕事を済ませた後は鍵を戻しておくので被害に遭っていることが発覚するのは次の日の朝というケースもあり、この犯行に及ぶプロの窃盗団は、その部屋にが二人連れで揃って大浴場に出掛けられた後に脱衣場に行くみたいで、女性の方が鍵を持って行かれることもある中、女性の脱衣場での犯行も出ているらしく、そのプロ達は男女のペアと言われていても、廊下の防犯ビデオがあっても脱衣場や浴場に防犯カメラの設置は難しく、あちこちで同じ2人連れの録画映像もあるそうで、フロントスタッフ達も出席するようにしていた。
その会合でもう一つ議題があったそうだ。それは韓国のサムスンのスマホやタブレットの発火事故の問題で、昨日も関西空港の保安検査場でそんな出来事が起きていたし、機内で発生したケースもあり、多くの航空会社が持ち込みを禁止している不具合機器だが、宿泊されるお客様がそれを持参されていて火災につながったら大変で、各宿泊施設がフロントや大浴場に注意書きを掲示することになった。
社会が便利になることは歓迎だが、予想もしなかった犯罪が登場するのも困りもので、過日に参加した旅行会社主催の研修会に参加したら、パソコンやスマホの機能を外部から停止させ、身代金を要求する犯罪も出ているそうで驚いたが、これらが大手の企業や地方の自治体でも被害が出ているそうで、ホテルや旅館がそんなトラブルに巻き込まれたら予約状況が確認出来ないので大混乱を来すことになるが、尚美の旅館ではIT技術に長けたスタッフがおり、彼が厳しいセキュリティーソフトを導入しており、最悪の想定をして毎日別のパソコンにバックアップをしていることを知った。
彼の話によるとメールのパスワードが盗まれることも多発しているそうで、定期的に変更する必要があると教えてくれたが、尚美も夫である社長もアナログ人間で、携帯電話は掛かって来ることと掛けるという通話のみしか行っておらず、何か不具合が発生したら彼に助けて貰うことにしている。
3か月ほど前のことだった。社長の携帯電話が「固まってしまった」と動かなくなったので彼に調べて貰ったら、変なボタンを押してしまったようで初期設定に戻したら機能するようになったと笑われた出来事もあった。
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「小説 女将、防犯会議で」へのコメントを投稿してください。