麗香が女将をしている温泉地はJR特急停車駅のすぐ近くにある。駅前にある商店街の活性化も問題になり、地元行政と観光組合が共同企画して駅前のバス停の横にユニークなデザイン小屋を建て、中に足湯を設置することになった。
湯は近くにある源泉からパイプでつながることになったが、観光組合の会議では何か話題になることはないかと討議されていた。
そんな中、出席者が面白い発言をした。数日前のニュースで何処かの足湯が温泉の湯の中に日本茶の成分を入れているというもので、予想外の効能があるというものだった。
「そんな話題性のあるアイデアを考えてください」と議長となった組合長が発言されたが、
「漢方薬的な薬剤を投入したら」よか「この温泉地で採取している湯の花を入れたら」という意見もあった。
女将達からは「バラの花を入れたら」とか「柚子を入れたら」いう女性らしい意見も出て会場が一気ににぎやかになったが、組合長の「経費が高額なものは却下します」の一言でまたイメージが変わってしまった。
オブザーバーとして出席していたJRの関係者から「タオルなど足拭きの準備はどうするのです?」と質問され、まだ現実的な基本的な部分が構築で来ていないことが露呈した。完成まで約1か月の予定だが、オープニングセレモニーのことも考えなくてはならない。
「そんなところから、組合員を5名ずつ分けて分科会的な委員会でテーマを決めていただきます。
組合長はこのままでは時間だけが流れると判断したみたいで、1週間後に再度会合を開くことにして、グループの振り分けだけを進めて解散となった。
自分の旅館に戻った麗香は、会合の内容についての報告をロビーにいた支配人に伝えたら、支配人は自身の知る様々な蘊蓄を教えてくれた。
「女将さん、足湯ばかり話題になっているようですが、『手湯』や『顔湯』もあるのですよ。駅のホームで手を温めることが出来るところもありますし、出て来る蒸気で顔を温めるというのもあるのですから」
「湯の花」「柚子」「菖蒲」「ラジウム」などの存在が知っていたが、「手湯」や「顔湯」まで存在しているとは知らなかった。次回の会合で提案してみようと思った麗香だった。
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