佐代が女将をしている旅館社長は夫だが、その夫が風邪をこじらせて肺炎に近い状態になってしまい、医院の先生のアドバイスから約1週間の予定で入院することになってしまった。
県立病院なので車なら20分で行けるので恵まれているが、病院から貰った「準備するもの」という説明書プリントを確認しながら手提げ袋に入れて病院へ行ったが、入院担当窓口に行くとすでに病室が決まっており、エレベーターでその階に行き、ナースステーションに行くと看護師さんが病室へ案内してくれた。
持参して行ったパジャマに着替えさせて微熱もあるので辛そうで、すぐにベッドに横になると、さっき案内してくれた看護師さんが来室、点滴の準備をすると「右腕がよろしいですか、それとも左腕に?」と質問され、夫は嫌そうな表情で「どりらでもお好きなように」と返していた。
注射の針を刺されるのが大嫌いな夫だが、腕の血管が出難いという体質から過去に何度か痛い目に遭っていた体験もあった。
この看護師さんの手際は凄かった。夫の腕を目にした瞬間に「看護師泣かせですね。でもご安心ください。私は見えない血管でも指先で探せますから」と言って、人差し指で腕を抑えていると「ここにありました。これなら大丈夫ですから」針を刺し、見事に点滴をスタートさせた。
夫は「プロの看護師さんだなあ」と感心していたが、佐代も何だかホッとしたような気がしてナースステーションに挨拶を済ませてから戻った。
次の日、お客様のチェックアウトを済ませてからお麻との携帯電話に連絡を入れ、「何か持参する物は?」と確認すると「咽喉が渇いて仕方がないので加湿器を頼む」と言われた。
佐代の旅館でも最近のお客様の中で女性から「加湿器を」と要望されることも多いので十数台を準備しているが、各部屋に設置する計画が進んでいるところだった。
何時もお世話になっている医院の先生に「インフルエンザ菌は湿度に弱く乾燥に強い」とアドバイスされ、バスタオルを濡らして室内に干しておくことも効果があると聞いたが、病室は乾燥気味になる傾向があるそうで、加湿器と共に数枚のバスタオルを持参することにした。
病室に入るとまず言われたのが「病院の食事は塩分が少ないからか美味しくない」とボヤキの声だったが、「病人は病人らしく贅沢は言えません。すべて先生と看護師さんにお任せしたらよいのです。早く直して退院すれば何でも食べられるのですから」と説教的に返した佐代だったが、早速持参した加湿器のセッティングを済ませ、バスタオルを濡らせて窓側にあったポールに掛けるようにした。
朝から肺炎になっていないとレントゲン撮影をしたそうだが、問題はなかったと聞いて安心したが、先生から「若くない年齢ですから気を付けてください」と言われたそうで、佐代自身にも響く言葉であった。
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