山間部にある温泉地の瀧江の旅館のロビーで、交流のある北陸の温泉旅館の社長夫婦と1時間ほど話し合っていた。
夫婦は親戚の法要に行った帰路だそうで、朝から「ちょっと立ち寄っても?」と電話が掛かっていた。
北陸新幹線の開業で観光客の増加で活気がある北陸だが、夫婦の旅館でも客室稼働率が2割アップしたそうで有り難い恩恵だと言っていた。
金沢では「ざわもて運動」というキャンペーンを行っているそうで、それは金沢独自の「おもてなし」を発想したもので、観光客の集客にはかなり影響したみたいだし、その大規模な取り組みは結果として観光客に歓迎されていたようだった。
そんな中、この日の朝刊の記事にあった「北海道新幹線」にかんする北海道商工会議所会頭のインタビューが話題になった。
随分前から道内のホテル業界は過当競争に陥り信じられない低料金を打ち出すところもあり、互いが首を絞め合う悪循環になっていた状況があったが、そこから意識改革をして、適切な料金態勢を打ち出し、従業員の給料をアップさせて仕事に誇りを抱かせるようにさせなければ全体的なサービス向上に繋がらず、悪化の一途をたどると言う指摘だった。
北海道新幹線が北陸新幹線とは全く環境も期待効果も異なるという専門家の意見が多かったが、予想以上に厳しいようで、開業後の乗車率が4割を切っている事実に衝撃が走っているのも事実である。
熱し易く冷め易いというのが人の常、世の常と言われるが、利用者が目的が生まれる魅力を感じなければ疲弊して行くのも当たり前である。
一部に恩恵があるのは事実だろうが、観光と産業というグローバルな観点からプロデュースする必要性があり、好循環を継続させることが容易ではないことを関係者が実感しているかもしれないと話し合っていた。
「ここはJRの最寄り駅からバスで30分も掛かる不便なところでしょう。あなたの所みたいに新幹線景気が及んで来ることもないし」
「でも、ここの温泉は『通』の人達には垂涎の代物でしょう。だから数百年も続いて来たと訳で、行政と観光課と組合が一致団結して知恵を出し合って集客に努力しなければいけないと思うわ。我々北陸でも、降って湧いたような恩恵に浸っていたところでもブームが去って来ていることを感じ始めているところもあるし、何より大切にしなければならないのはご利用くださったお客様の口コミから『あそこの旅館は最高だ!』と言われることは不変のようね」
鉄道や高速道路の開通はその沿線周辺を大きく変える事実もあるが、それがいつまでも続く甘い保証はなく、常に危機感を抱いて最悪の想定を考慮しながら取り組むことが重要のようで、夫婦の車を玄関で見送った瀧江は、ふと不安に駆られながら自分の旅館の将来を見つめ考えるひとときとなった。
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