ロビーの清掃が終り、続いて日課となっている玄関ホールの花瓶の花を活け、やっと休憩できるひとときとなる女将の麻美だったが、ロビーのソファーに座ってページを開いたのは過日に夫が北海道へ出張した際に持ち帰ったパンフレットで、表紙には「Tug この冬味わいたい美味と温泉を満喫 温泉宿で地元ごはん いで湯と地元自慢の食材で冬も楽しい津軽海峡の旅」とあり、津軽海峡エリアの新着情報誌だった。
1ページ目に興味深い文章があった。それは「Tug」というネーミングの由来で、英語直訳で「強い引き」の意があるが、言葉本来の意味に加え、津軽(Tugaru)の頭3文字と重ね、「津軽海峡エリアの旅を牽引する」情報誌を目指す思いを込めていますとあった。
この情報誌を目にして感じたことは、麻美の旅館があるこの温泉地でもこんなパンフレットが創作出来ないかということで、そんな思いを抱きながらページを開いて行った。
3ページ目を開いた時、この情報誌が単なる観光目的のレベルではなく、このエリア全体を総合的に捉えたプロジェクト的な企画となっていることで、そこには「暮らしませんか? 北海道で」というタイトルで、北海道へ移住・定住を考えている方へと呼び掛け、北海道での「暮らし」や「生活」について、地元の方がご案内するイベントですと書かれ、大阪、名古屋、東京で開催される日時が掲載されていた。
これらはNPO法人が関係しているみたいだが、こんなきっかけで人生が大きく変化するケースもあるだろうと想像していた。
観光スポットとなる各地それぞれが本格的なプレゼンテーションを行うようなページ企画となっており、ホテル、旅館、フェリー会社やバス会社の企画広告もうまく組み込まれていて充実した内容となっている。
同じ立場であるホテルや旅館のページに特別な興味を抱く。そこに表記されているキャッチコピーに目が留まった。「老舗料理旅館が守り続ける前浜の幸と、和のおもてなし」「名産アワビを思う存分!贅沢な味と四季にふれる湯宿」「北海道の温泉宿で味わう料理長自慢の『地元ごはん』」「津軽文化が香る日本旅館 秋冬は『大間の鮪尽くし会席』も登場」「ほのかなランプの灯りのなか、山の幸と静寂を楽しむ一軒宿」「海と一体になる温泉と鮟鱇の『美肌』コンビ」「山海の豊かな恵みと名湯で人々を癒す」とある。
また、フェリーのページには「ノスタルジック航路。それは本州と北海道を最短で結ぶ魅力的な『海の国道』」とあり、大間と函館を90分で結ぶ「大函丸」の歴史が紹介され、それは昭和39年に日本初の外洋フェリーだと解説されていた。
大間と函館の間は対岸から見えるほど近いが、今、大間で原発に関する開発が進んでおり、最悪の場合に避難の対象となる函館側の問題も表面化している事実がある。
麻美は過去に函館に行った際、湯の川温泉の「竹葉新葉亭」という和風旅館に宿泊したが、旅館として学ぶことが多かったので印象に残っている。朝食が素晴らしかったし、大浴場から見える庭園にリンゴの木があったことを憶えている。
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