来年春に北海道新幹線が開業する。法子が女将をしている温泉旅館は函館空港とJRの函館駅の中間にあるが、この新幹線開業については期待もあるが懸念も抱いている。3ヵ月程前に観光協会での会合で様々なシミュレーションをして対策をすることになった。
函館駅が北斗市に移って新函館北斗駅となる。新幹線を利用してそこから現在の函館駅に移動する所要時間に問題があり、法子の旅館からは随分と遠くなるからだ。
観光課の職員の話によると、東京駅から新青森を経由して青函トンネルを通って新函館まで最速で4時間9分を要するそうだ。
社会の移動に関する人の心理に「4時間」に大きな壁が存在するそうで、4時間と聞くだけで航空機を利用する行動が強くなると分析されているので空港から来られるお客様に期待したいところだが、一度は新幹線をと考える人も多いと想像するので心配しているのである。
飛行機には早割料金の設定もあり、東京から新館線で北海道まで来る人は少ないようでも、北関東や東北のお客様が新幹線を利用されることが増えるだろう。そうなると法子の旅館のある温泉地はアクセスが遠くなって客足が遠のくことも考えられる。
新青森と新函館北斗間の距離からすると新幹線にしては所要時間が掛かり過ぎるのだが、この間の大半を走ることになる青函トンネル内の最高速度が140キロに制限されており、どうにもならない背景があるそうだ。
その制限は在来線の貨物列車の走行があるからで、擦れ違う時の風圧から難しいと決められている。
寝台列車や特急列車が全廃されても、北海道の産物を輸送する貨物列車は不可欠で、青函トンネルという物理的事情はクリア出来ない事情が秘められている。
そんなところから温泉地は随分とアクセスで不利となり、協力し合って新しい集客方法を構築しなければならないのである。
法子の旅館のスタッフ達も、社長を中心に何度も会議を行って新しい企画を発想しようとしているが、どのように考えてもデメリットの方が目立って来るので困っている。
観光課の事務局の職員の方が新函館北斗駅と青森駅間の料金について高過ぎるという指摘をされていた。それによると現在の在来線の特急料金は2250円だそうで、新幹線は4450円と予定されているので随分と高い感じがするのである。
比較対象として興味深いことを説明していた。新函館北斗駅と新青森駅間は148,8キロだが、東海道新幹線の東京駅と豊橋駅間293,6キロや上越新幹線の東京駅と燕三条駅間の293,8キロより高いと言うのである。それは新線を開通させたという事情もあるだろうが、それにしても高額過ぎるのではという意見だった。
地元の関係者はJR側に割引料金の設定を懇願しているようだが、法子自身の本音は、東京のお客様は飛行機で函館空港をご利用いただけたらと思っていた。
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